第15章 岩柱
「あ~、やっぱりノブ、お前は変わってるよ。年齢が近かったとしても、たぶん無理だわ」
一応は考えてくれたようだが、遠くを見ているようだ。これ以上は話しても一緒だろう。
「まぁ、私は鬼殺隊ではないですから。柱の凄さとかは全く知らないですしね。でも、知らないからこそ、鬼殺隊に捕らわれずに話したりできてるんじゃないですかね。取りあえず私達は友達ですよ。それに、蜜璃ちゃんと出会ったのって、華子さんの甘味屋さんですから」
「え?そうなのか?」
「はい。かけ蕎麦、二つ」
話の途中だったが、お構いなしに親父さんは蕎麦を目の前に置いていく。
「斉藤さん、この話はこれで終わり。食べましょ」
「そうだな」
二人してにっこりと笑ったかと思うと、それぞれ手を合わせ、声を出す。
「いただきます」
箸を持ち一口食べる。
「おいしい。斉藤さん、おいしいですね」
「だろ?ここの蕎麦はこの辺じゃ一番だよ」
「他の蕎麦を食べたことないから分からないけど、私もそう思います」
それだけ言うと、その後は二人とも喋ることなく食べ続ける。ズルズルという音だけがやけに響くが、だからと言ってうるさかったり不快な音ではない。
次から次に口に吸い込まれていく。
実は、私はうどん派で、蕎麦は年末の年越し蕎麦で食べる程度だった。だけど、今日食べた蕎麦は、現代で食べていたものよりもおいしいと思った。本当に今までで一番と言っても過言ではない。
「ごちそうさまでした」
手を合わせてそう言えば、目の前の斉藤さんは二杯目に突入しているところだった。
いつの間に注文していたのだろう。全く謎だ。それだけ目の前の蕎麦に夢中だったのだろう。自分の食い意地に、笑えてくる。
頬杖をつき、黙々と食べる斉藤さんを眺める。
そういや、旦那は蕎麦が好きだった。私も子ども達もうどんを食べてるのに、一人だけ蕎麦を食べていた。
どうしてるだろうか。
一番下の子は一人前、食べられなかった。ちゃんとうどんを頼んで取り分けているだろうか。
胸が締め付けられる。涙が溢れそうになる。
一度目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をして、ゆっくりと自分に言い聞かせる。
大丈夫だ。
もう一度大きく深呼吸をし、目を開けると、前に座っている斉藤さんと目が合った。