第15章 岩柱
「はい。私を利用するという選択肢は提示できました。後は玄弥くんがどうするかです。でも、本人は頼らないって言ってました。頼って貰えるといいんですが…」
「あとは玄弥が決めることだ」
「はい。私は待つだけです。悲鳴嶼さん、今日はお時間頂きまして、本当にありがとうございました」
「ああ。不死川にもよろしく伝えてくれ」
「はい。それと、実弥さんには、玄弥くんに会ったことは内緒でお願いしますね。それでは失礼いたします」
そう言って、一礼する。部屋から出て玄関に向かえば、外で待っている斉藤さんが見える。
草履を履きながら、ふぅっと一息つく。何だかんだで緊張していたのだろう。斉藤さんを見て、気が少し抜けた気がする。
早足で斉藤さんの元に向かう。
「斉藤さん、お待たせしました」
「じゃあ、帰るか」
「はい」
そう言えば、またあの体勢だ。やっぱり背負ってもらうのは、何度やっても慣れない。
「やっぱり慣れない」
そう言い背中に近づき、手を斉藤さんの首にまわす。
「こっちが苦手なら、抱っこでもしてやろうか」
「いや、それはもっと無理なんでっ!そんなお気遣いは大丈夫ですっ!」
慌てて答えたが、よくよく見れば、肩を揺らしながら斉藤さんは、笑っている。
間違いない。私のことをからかったのだろう。
「もう。からかわないで下さい」
「というか、ノブ、慣れないとか言ってるけどさ、毎回寝てるだろうが。慣れないとか思ってたら、人の背中で寝るなんて、絶対、そんなことはできねぇよ!無駄口はこれくらいにして、ほら、行くぞ」
「…そうですかね。まぁいいや。よろしくお願いします」
自分から背負われるのに行くことが、慣れないのだ。
まぁ、背負われるのも慣れない。
だけど、寝てしまうのは、やっぱり緊張とかはしてない証拠だろう。
実弥さんに背負われたら…とも考えたが、最初ならともかく、今となっては寝てしまいそうだ。
まぁ、いっか。
よくも悪くも大雑把な私は、そこで考えることを放棄した。いや、放棄しないといけなかった。
帰りの山道は、下り坂で、行きよりも激しい振動だった。