第15章 岩柱
「当たり前のことを自慢げに言うな!本当にこんなとこで迷子になるのだけはやめてくれ」
斉藤さんも想像したのだろう。苦虫を噛み潰したような顔だ。そんな状況になれば、斉藤さんも色々と大変だろう。
「いつも突っ走る私としては、成長したと思ったんですけどね。取りあえず、悲鳴嶼さんにご挨拶してきますね」
「ああ」
斉藤さんの横を通りすぎ、そのままの足で玄関に入る。
「悲鳴嶼さん、三井です。お邪魔してもよろしいでしょうか」
「ああ」
返事が聞こえたので、屋敷にあがり、先程通された部屋まで歩いていく。悲鳴嶼さんは先程座っていた場所に座ったままだった。
悲鳴嶼さんは、刀ではなく、武具と言うのだろうか、その手入れをしていた。
実際に見ると、かなり恐ろしい。鉄球やら斧のような物が鎖で繋がっているが、これを振り回して確実に鬼に当てるのだ。目も見えないのにだ。
凄いの一言しか出ない。
「よくそんな物が扱えますね。いや、悪い意味とかではないですよ。私は思ったところに投げることすらできないので、それで鬼と対峙している悲鳴嶼さんが本当にすごいなぁと思いまして」
「思ったところには投げれるだろう」
至極当たり前の事のようにさらりと悲鳴嶼さんは言う。
「いやいや、私は思った所には行きません。難しいんですよ。どう見てもそれは重そうですし。本当、鬼殺隊のみなさんは凄い方ばかりですね」
「皆、鬼殺のためだ。強くなければ、自分が死ぬ。それだけだ」
なんて、簡単に言うのだろう。当たり前の事なのかも知れない。
だけど、私達がこうして平穏に暮らせているのは、鬼が空想の生き物だと信じて過ごしているのは、鬼殺隊の隊士のみんなが見返りを求める訳でなく闘ってくれているからだ。
「私達がこうして過ごせているのは、みなさんのお陰ですね。改めて実感しました。ありがとうございます」
少しだけ、悲鳴嶼さんの表情が柔らかくなった気がした。
そして、少し間をおいて尋ねられる。
「…玄弥とは、話ができたか?」