第15章 岩柱
悲鳴嶼さんのお屋敷まで戻ろうと振り返るが、いくつか道があるようも見えるし、道なんて全くないようにも見える。
つまり、帰り道が分からないのだ。
ここで間違ってしまえば、山の中を遭難することは確実だ。
再度振り向き、玄弥くんに声をかける。
「あの~、どこから帰ったらいいのかな?」
「はぁッ?来た道を帰ればいいだろッ!」
「いや、来た道がどこか分からなくなってしまったのよね~ 」
「はぁ~ッ。何なんだよ、お前は。ここだよ、ここ!どう見ても道だろッ?」
今にも怒りが爆発しそうな勢いで吐き捨てなら、私の横を通りすぎる。そして、帰り道の入り口まで行き、指差す。
「あぁ!そこなんだね。もう、全部同じにしか見えなかった。ありがとう」
「さっさと帰りやがれッ!」
荒い口調で言い、滝の方へ戻っていく玄弥くんの背中を見ながら声をかける。
「うん。そうする。じゃあね、玄弥くん。いつでも連絡待ってるよ。修行がんばってね」
私の言葉に反応することはなく、修行を再開させようとしている。
邪魔しちゃいけないなぁ。
そう思い、玄弥くんに背を向け、教えて貰った帰り道に目を向ける。
滝の音を聞きながら、来た道を戻る。
これで玄弥くんに会えて、繋りができた。そして、選択肢も提示した。
あとは玄弥くんがどう考えて行動するかだ。
それまでは、私は待つしかない。いつになるかは分からないが、多分連絡をくれるだろうと信じている。
木々に囲まれた道を進んでいくにつれ、滝の音は小さくなり、悲鳴嶼さんのお屋敷が見える頃には全く聞こえなくなった。
そのまま進んでいくと、玄関近くで立っている斉藤さんが目に入る。
「斉藤さーん」
手を振りながらそう言えば、斉藤さんは怪訝そうな顔で聞かれる。
「おい、ノブ。お前勝手にどこ行ってたんだっ?」
「勝手には行ってないですよ。悲鳴嶼さんにも言われて、玄弥くんに西瓜を届けに行ってました」
「なら、いいけど。よく迷子にならなかったなぁ」
「取りあえず、まっすぐだったので。でも、山で迷ったら遭難するだろうと思ったので、ちゃんと帰り道は聞いてから帰ってきましたよ」
少しだけ自慢げに答えた。
方向音痴の私は、少し間違えばそんな状況になっていたかもしれない。まっすぐで良かったし、ちゃんと聞いて帰ってきて良かったと、心から思う。