第15章 岩柱
「私が玄弥くんに会いに来たのはね、実弥さんと何かしら連絡が取りたいときに、選択肢の一つになればなぁと思って」
「にぃ…兄貴はお前が来たこと、知ってるのかよ?」
「悲鳴嶼さんに会いに行くのは知ってる。今は、あんまり仲良くないんでしょ?何となくお館さまから聞いたけど」
「……」
「実弥さんからは家族の話しは全く聞いてないの。だから玄弥くんのことを知ってることがバレたら、追い出されるかもなって、思ってる」
「…追い出されて、大丈夫なのか?」
眉間の皺と目付きの鋭さは変わらないけど、少し声のトーンは落ち着いている。
何だかんだで心配してくれているんだろう。
「だから、さっき悲鳴嶼さんに追い出されたら、ここに居候させて貰えるように頼んどいたから、多分大丈夫!返事は貰ってないし、信用されてないけどさ」
「はぁ~ッ!あり得ねえだろッ!何でそうなるんだよッ!」
悲鳴嶼さんの屋敷に居候になれば、玄弥くんとも一緒に住むことになる。思ってもみない返答に、驚きと苛つきから、また声が荒くなる。
「バレたら、だけどね。まぁ、バレても実弥さんと玄弥くんの仲が、今より良くなるなら、私はどうなってもいいし」
「…お前がどうにかなったらダメだろ」
顔を背けながら、ボソッと呟く。そんな仕草も実弥さんにどこか似ている。
「ふふ。ありがとう。玄弥くんも優しいね」
「優しくねぇッ!」
即答だった。背けていた顔をまたこちらに向けて、大声で怒鳴られる。気性は玄弥くんの方が荒いのかなぁと思うけど、そんな部分も似ていて、兄弟なんだなぁと実感する。
「そんなとこも、そっくり。やっぱり兄弟なんだろね。まぁ、そんなこんなで、今の関係をどうにかしたいって思ったら、いつでも言ってね。作戦練らなきゃだから」
「…どんなだよ。俺は俺のやり方でやる。お前なんかに頼らねぇ」
話しは終わりだと言うように、西瓜を持ち、また滝の方へ向かっていく。その後ろ姿に向かって声をかける。
「うん。それでもいい。私は玄弥くんの選択肢の一つだから。使ってみようかなぁと思ったら、鴉に手紙を預けてね」
返事はない。
でも、持ってきた西瓜を大事そうに水につけている姿を見れば、これだけでも会いに来て良かったと思える。
後でいっぱい食べて、その時だけでも心が少しでも安らげばいいと思う。