第15章 岩柱
5分程経った位だろうか。やっと滝から出てきた玄弥くんが、私の事に気づいた。
そして、しっかり睨まれる。
「…お前、何でここにいる」
上半身は裸で、びしょ濡れの体からは、水滴がボトボトと落ちている。髪の毛がペタンとなっていて、とても可愛らしい。こんな姿の玄弥くんはレアだな。そんなことを思いながら、立ち上がり、玄弥くんに近寄る。
「修行お疲れ様。寒くない?大丈夫?」
「何でここにいるんだッ?」
質問に答えない私に、玄弥くんは更に苛ついたのだろう。先ほどよりやや大きく、強めの口調で言われる。所謂怒鳴られているってやつだ。
そんなことは全く気にしない。怒鳴られ慣れてるし、玄弥くんも好きなキャラクターの一人なので、会えた嬉しさの方が勝る。
「さっきはありがとう。修行中だったから、待ってたよ。これ、お土産の西瓜。冷やして食べて」
「……」
西瓜を手渡すが、玄弥くんは無言で受け取る。眉間に皺が寄っているが、まあ、仕方ない。
「私、三井ノブっていうの。玄弥くんって、実弥さんの弟さんなんでしょ?」
「…そうだったら、何だって言うんだよッ!」
玄弥くんは怒鳴り声をあげるが、私は全く気にすることなく、淡々と話を続ける。
「私ね、今実弥さんのお屋敷に居候させて貰ってるんだ」
「……何でお前がッ!」
そう言い、分かりやすい位に顔色が変わる。
「私ね、記憶がなくってね。実弥さんの屋敷の前で倒れてるところを助けて貰ったの。行く宛がないから、そのまま居候させて貰ってる。まぁ、実弥さんはお館さまから言われて渋々なんだろうけどね」
「記憶喪失…」
玄弥くんはしまった、と言うような表情をして顔を反らす。
「大丈夫よ~気にしなくて。記憶はないけど、何とか生活できてるし。生きてるから」
笑いながら答える。
でも、玄弥くんは私の生きてると言う言葉に、少し顔が歪む。玄弥くんの家族は、もう実弥さんしか生きていない。