第15章 岩柱
「私、この世界に知っている人はいないんです。だから少しでも仲良くなれたって思いたいんです。これは私の勝手な思いで、勝手なお願いなので、本当に嫌だったら今ここですぐに断って下さって構いませんから」
「…分かった。私が三井、お前を信用できた時にはそう呼んで貰おう。だが、私を行冥と呼ぶのはお館さま位だぞ」
悲鳴嶼さんは、すんなり了承してくれた。納得したのか、それともそう呼ばれる事はないと思ったからなのか。いつになるかは分からないが、まぁいつか信用して貰えると信じよう。
「本当ですか?嬉しいです。私、早く信用していただけるように、がんばりますね!では、玄弥くんの所へ行ってきます。本日はお時間を作っていただき、ありがとうございました。それでは、失礼いたします」
一礼をして、部屋を出る。玄関へ向かい始めてから、気づく。
…滝って、何処だ?
来た道を戻り、再度部屋の前で声をかける。
「悲鳴嶼さん。滝の場所って、何処ですか?」
「…そうだったな」
二人して、顔を見合わせて笑った。
ひとしきり笑うと、悲鳴嶼さんは滝の場所を詳しく教えてくれた。再度お礼を言い、屋敷を出て滝へと向かう。
さあ、ここからは第2ラウンド!
こっちの方が手強いに違いない。でも、今日は取りあえず私の存在を知って貰う。それが目的。
いつか実弥さんに会いたいと思った時の、選択肢の一つになればいい。
屋敷から滝までは、山の中を通っていく。
何となく道があるから、迷わず行けた。思いの外近かったのと、水の音が響いていたのも理由の一つだろう。
滝に近づくと、滝に打たれている玄弥くんが目に入った。
「すごい…」
実際に滝行を見るのは初めてだ。季節はいいが、山の中だし、水も冷たいだろう。思った以上の迫力だ。
修行の邪魔はしてはいけない。座れそうな石を見つけ、腰かける。そして、こちらには全く気づきそうのない玄弥くんを見続ける。