第15章 岩柱
「今から話す事は他言無用でお願いします。今からお話する事を知っているのは、お館さまと実弥さんだけです」
「ああ」
悲鳴嶼さんは私の方をしっかり向いている。じっと見つめられているようで、まるで目が見えているかのようだ。そんな悲鳴嶼さんの目をしっかり見て、話し始める。
「私は、実弥さんの屋敷の前で倒れていた所を助けられました。なぜそこにいたのか、全く分かりません。記憶がないんです」
「記憶喪失か」
「そうです。でも、それは少し違います。記憶がないのは本当ですが、私は40歳の記憶だけがあるんです。断片的ですが、今生活をしていても、その記憶しかないんです。
私の見た目は20歳にならない位と言われます。
その記憶が本当に未来の記憶なのか、それともただ混乱しているだけなのか、そもそも私が40歳という可能性もあります」
「…だが、そんなことがありえるのか。未来の記憶など…」
「本当かは確かめようがありません。私にも分からないのです。
悲鳴嶼さんが、私の存在が掴みにくいのはそう言った理由があるのだと思います。
器と中身が違う。だから、違和感があるのだと」
「器と中身…そう言われれば、この違和感は納得はいく。三井」
「お館さまからは、私が未来の記憶を持っていることで、鬼舞辻無惨に狙われる可能性があるとも言われました。無惨は不確かでも、そんなことが耳に入れば、間違いなく私の記憶を欲しがるだろうと」
一度、悲鳴嶼さんから目を外し、ふぅと、一息つく。
そしてまた、悲鳴嶼さんを見て話を続ける。
「信じる、信じないは、お任せします。突拍子もない話しですから、信じて貰えないと思っています。
でも、お館さまと実弥さんは信じてくださいました。狙われる可能性もあることから、今は実弥さんのお屋敷に居候させていただいています。だから、嫁ではないのですよ」
「だが、なぜ…」
「なぜ…そうですね。私も知りたいです。でも分かりません。これが事実です」
「…そうか。可哀想に。よくも分からぬまま、鬼舞辻に命を狙われる可能性があるとは…」
悲鳴嶼さんは手を合わせ、涙を流す。