第15章 岩柱
「ごめんください。隠の斉藤と申します。三井様をお連れしました」
「三井様?」
まさかの名字に様付けに、声が漏れ、斉藤さんの顔を見てしまう。
「煩い。静かにしろッ」
横から睨まれ、小さな声だが、確実に声は怒っている。
静かにしろと言われたので、頷き、前を向き待つ。
「お待たせしました。お上がりください」
声がする方を見れば、会いたいと思っていた人の突然の登場に動揺する。
玄弥くんだ。
まさか、こんなにすぐに会えるなんて思ってなかった。
実弥さんとは髪の毛も違うし、似てない。
でも、似てる。
険しい顔つきは、まだ心が閉ざされている証だろう。
「…おいっ!おいっ!ノブっ!」
かなり見続けていたのだろう。斉藤さんが焦ったように私の肩を叩いている。
「…すみません。格好よくて見いってました」
「!!!」
「おいっ!」
変なことは言ってない筈なのに、斉藤さんに肘でつつかれる。玄弥くんを見れば、目を見開き、こちらを睨んでいる。
「すみません。三井ノブと申します。本日は突然お伺いして申し訳ありません。よろしくお願いします」
「…どうぞ」
そう言われるが、目を反らされる。うーん。印象、最悪だったかもしれない。
「おい、俺は外で待ってるからな」
そう言い、一礼して斉藤さんは玄関から外へ出て行った。
草履を脱ぎ、屋敷にあがる。玄弥くんは私があがったことを確認すると、廊下を歩いていく。勿論目を合わすことも、話しかけられることもない。
「お連れしました」
「ああ。あとは、大丈夫だ」
「はい」
「ありがとうございました。失礼致します」
悲鳴嶋さんに返事をすると玄弥くんはすぐに来た道を戻って行こうとしたので、忙しで玄弥くんにお礼を言い、一礼して部屋に入る。
そこには想像通りの悲鳴嶋さんが、座っていた。
柔らかい雰囲気がありつつも、大きな存在感に圧倒される。
入ってすぐの場所で、膝を折り座る。
「初めまして。三井ノブと申します。本日はお時間を頂き、ありがとうございます」
手を着き、一礼をする。
「ああ、お館さまから話しは聞いている。三井、そこでは何だから、こちらへ」
悲鳴嶋さんはそう言い、自分の前に大きな手を差し出した。