第15章 岩柱
【実弥side】
苛つきから、睨み付けているにも関わらず、ノブは全く意に介した様子もなく、笑いかける。
「実弥さん、行って参りますね」
「…あぁ、気をつけて行ってこい」
戸が閉まり姿は見えなくなったが、すぐに斉藤とノブの会話が耳に入ってくる。
「斉藤さん、西瓜が結べないので、ちょっと西瓜を固定して貰えます?何度かしたんですけど、西瓜が重くて結べなくて」
「ほら、後ろ向け。持っててやるから。早くしろよ」
「ありがとうございます!よし、できた!できましたよ」
「じゃ、行くか」
「はい。お願いします」
「やっぱり恥ずかしいですね、これ」
「頭突きの方が恥ずかしいと思うがなぁ。まぁいい。さっさと行くぞ。しっかり捕まっとけよ」
「はい。お願いします」
その声を最後に何も聞こえなくなった。
さっきまでの喧騒が嘘のように、静まり返っている。ふと我に返り、部屋に戻る。刀の手入れが途中だった。
無心で手入れをし、布団に横になる。
目を閉じれば先程の事が思い出される。どれも自分らしくない言動だ。だが、何故そんな、言動を取ったのか、考えるが検討もつかない。
落ち着いたはずの苛立ちが沸き上がってくる。
寝るどころじゃねぇ。
結局、布団から出て、道場に向かう。
ひとしきり汗を流せば、気持ちはすっきりとする。
考えるのは性に合わねぇ。
雑魚鬼続きで苛立っていたんだろう。
それに昨日、ノブに振り回されたことも要因の一つだろう。
もう一度、風呂で汗を流し、布団に入る。
もう何も考えることはない。目を閉じれば、睡魔が襲いかかる。
寝る直前、あいつに抱きつかれた事を思い出す。一瞬だったが、暖かかった。小さい頃、お袋にされたなぁと思ったが、それ以上は考えられず、眠ってしまった。