第15章 岩柱
【実弥side】
斉藤が外に出たところで、ノブが振り向く。一瞬驚いた顔をした。まだ俺がいたことに驚いたんだろう。だがすぐにいつもの笑顔に戻る。
「実弥さん?煩くしてすみませんでした」
「お前…ちょっと距離が近すぎるんじゃねぇか」
何故かそんな言葉が口から出た。
「ん?距離?」
「斉藤とだよッ」
「ん??そうですかねぇ?あ!頭突きはこの段差を踏み外したのが原因ですよ。好きでした訳ではないですからね!」
何を勘違いしたのか、頭突きの事を説明し始めた。俺から説明するのも面倒だァ。それに、自分自身、何でこんな事を言い始めたのか分からない。
「……もういい。気にするなァ」
その話しは終わりだと、顔を反らす。なのにノブは何を勘違いしたのか、不気味に笑いだした。
「へへっ。じゃ、実弥さんにもしましょうかね」
そう言いながら目の前まで来たノブは、何故か俺の手を取る。突然の事に困惑したまま、ノブを見れば、満面の笑みで見上げていた。
「じゃあ、今から悲鳴嶼さんの所まで行ってきますね。頭突きもしますか?」
「いらんッ!」
いつもであれば怒鳴り散らして振りほどくであろう手を、何故か振りほどけずにいた。
「じゃあ、代わりに…」
何を思ったか、握っていた手を背中に回し、ギュッと抱き締められ、ポンポンと背中を軽く叩かれた。まるでこどもをあやしているかのようだ。
ほんの一瞬のことだ。
自分自身の状況に理解が追い付かない。そんな俺の気持ちはお構い無しに、ノブは笑いかける。
「ふふ。じゃあ、行ってきますね」
俺の返事を聞くことなく、横をすり抜けて行くノブに、何とか一言返事をする。
「…あぁ」
なんでこんな事になったんだ。状況を思い出そうとすれば、今度はノブから肩を叩かれる。
「実弥さ~ん!大丈夫ですか~?私、そろそろ行ってきますね!」
横をすり抜けて、台所に降りたノブは、西瓜を背負い風呂敷を結ぼうとしている。何故かその姿から目が離せない。
「まぁいっか。斉藤さんに手伝って貰おう」
西瓜を手に持ち、斉藤と楽しそうに会話をするノブに、収まっていた苛立ちが再度沸き上がる。