第4章 お館さま
そんな言い合いをしていると、それは何の前触れもなくやって来た。
「カァー!!不死川ワトソノ屋敷ニイル女、オ館サマガオヨビダァー!スグニ準備シロォーッ!!」
「うわぁ、鴉が喋った。ってかいつの間にいたの??」
「ウルサイ。サッサト準備シロォー!」
「お館さまがァ。何でこいつがいることを知ってるんだ?」
「いや、私に聞かれても分かりませんよ。とりあえず行かないといけないんですよね?」
「そうだな。とりあえずさっきの話はまた後だァ。準備ができたら、すぐ行くぞォ」
「はい」
部屋に戻り、髪を結び直す。玄関に向かうと、隊服に着替えた実弥さんが待っていた。
「お待たせしました。実弥さん、これで大丈夫ですか?」
「まぁ所々汚れている所はあるが、準備する時間もないし、大丈夫だろう。準備ができたなら行くぞォ」
どうやって行くんだったっけ?と考えていると、急に視界が変わる。
「えっ?」
「喋ると舌を噛むぞォ」
悪戯っ子みたいに笑いながら、実弥さんが言う。
慌てて口を閉じる。
今日はお姫様抱っこではなく、荷物のように肩に担がれている。正直、お姫様抱っこではなくてよかった。あれはドキドキし過ぎて、寿命が縮まる。
そんな私の目には実弥さんの背中の羽織の殺の字が見えた。
その字を見て、どんな思いで鬼狩りをしているんだろうと思ったが、それはすぐにできなくなってしまう。
あまりの速さに、考えることはできなくなったのだ。
流石に柱だし、気をつけてくれているのだろうけど、この体制は長時間はきつい。上下左右に頭が揺れる。
うぅ、気持ち悪い。
ただ、落とされないように、頭がこれ以上揺れないように、実弥さんの背中に一生懸命しがみつくことしかできなかった。
目の前に広がる殺の文字が、鬼ではなく私を殺すために書いてあるのでは、と思うほどだった。