第15章 岩柱
斉藤さんの方に振り向き、早速お願いだ。
「斉藤さん、西瓜が結べないので、ちょっと西瓜を固定して貰えます?何度かしたんですけど、西瓜が重くて結べなくて」
「ほら、後ろ向け。持っててやるから。早くしろよ」
「ありがとうございます!よし、できた!できましたよ」
「じゃ、行くか」
「はい。お願いします」
そう言うと、斉藤さんは背中を向け膝を折る。いつでも背負える体制だ。
「やっぱり恥ずかしいですね、これ」
一度後藤さんに背負って貰ったとは言え、やはり恥ずかしい。なかなか慣れないなぁと思いながら、背中に近づき手を肩に回す。
「頭突きの方が恥ずかしいと思うがなぁ。まぁいい。さっさと行くぞ。しっかり捕まっとけよ」
「はい。お願いします」
そう言うと、斉藤さんは駆け出した。
背負われながら、隠の人もすごいなぁと改めて思う。背負ってかなりの距離を走り続けるのだから。
あまり振動もなく、でもしっかりとした速さで走り続ける。
「斉藤さん、すごいですね。重くないですか?きつくないですか?」
「まぁ、これも仕事だからなぁ。きつくないと言われればきついが、今日は自分の速さで行くからそこまでないぞ。まぁ、お前がもう少し軽ければ、もっと楽なんだがなぁ」
顔は見えないけど、絶対にニヤニヤ笑いながら言ってると思う。重いのは自分で分かってるのだが、一応反論はしておく。
「もう!重いのは知ってますけど、今日は西瓜もついてるからですッ!」
「そうだったなぁ」
話しながらでも、息があがることもなく、スピードが遅くなることもなく、走り続ける。
悲鳴嶼さんのお屋敷は柱稽古で出ていた所であれば、山の中だろう。周囲は田んぼだらけだったが、徐々に山に近づいているのが分かる。
「山の方に行くんですか?」
「そうだ。岩柱の悲鳴嶼様は目の前に見える山の奥に住んでいらっしゃるんだ。山に入ったら少し揺れるからな。覚悟しとけよ。話してたら舌を噛むぞ」
「分かりました!」
そう言われたので、山の中にはまだ入らないが、斉藤さんの首にしっかりと手を回し、頭も肩に載せる。
後藤さんの時と同じだ。心地よい振動が、睡魔を誘発させる。
昨日の疲れも相まって、すぐにウトウトと目蓋が落ちていった。