第15章 岩柱
「実弥さん?煩くしてすみませんでした」
「お前…ちょっと距離が近すぎるんじゃねぇか」
「ん?距離?」
「斉藤とだよッ」
「ん??そうですかねぇ?あ!頭突きはこの段差を踏み外したのが原因ですよ。好きでした訳ではないですからね!」
「……もういい。気にするなァ」
「へへっ。じゃ、実弥さんにもしましょうかね」
実弥さんに近づき、手を取り、顔を見上げる。
「じゃあ、今から悲鳴嶋さんの所まで行ってきますね。頭突きもしますか?」
「いらんッ!」
何故か手を振りほどかれないので、ちょっとだけ悪戯心が芽生える。
「じゃあ、代わりに…」
そう言い、実弥さんをギュッと抱き締め、ポンポンと背中を軽く叩く。まるで小さなこどもをあやすようにだ。
時間にすると、ほんの一瞬。すぐに手を離し、笑いかける。
実弥さんの顔を見やれば、何が起きたか分からないといった困惑した表情だ。かわいいなぁと思うが、早くしないと怒られそうだ。
「ふふ。じゃあ、行ってきますね」
「…あぁ」
部屋に戻り、小さな鞄を持ち、台所へ西瓜を取りに向かおうとすれば、未だに廊下に佇む実弥さんが目に入る。
まさかまだいるとは思わなかった。
「実弥さ~ん!大丈夫ですか~?私、そろそろ行ってきますね!」
肩を叩きながら、横をすり抜ける。
斉藤さんが待ってるから、急がないと。
台所に準備していた西瓜は、風呂敷でしっかりと包んでいる。肩に載せ、胸の前辺りで結ぼうとするが、西瓜が重くて上手く結べない。
一旦西瓜を机に載せ、中腰の体制で結ぼうと試みる。
が、できない。
「まぁいっか。斉藤さんに手伝って貰おう」
諦めて西瓜を手に取り、台所の扉を開ければ、斉藤さんが待っているのが、目に入る。
「遅いッ!」
「ごめんなさ~い。すぐ出ますから」
そう言いながら、扉を閉めるために屋敷の中を見れば、まだ実弥さんは廊下にいて、じっとこっちを見ていた。いや、見ているより、睨んでいると言った方がいい。
調子にのって怒らせたかなぁと思いつつ、後ろの斉藤さんの視線も鋭いのがヒシヒシと伝わってくる。
「実弥さん、行って参りますね」
「…あぁ、気をつけて行ってこい」
睨んだままだけど、返事が聞けたことで扉を閉める。怒られるのは帰ってからかな、と考えながら。