第14章 お出かけの続きを
「そうなんです。私は四十の記憶しかないんです。その私はこどもが三人いて、一番下の子が、ちょうどサムと…今日の迷子の子と同じ位の年齢だったんです。サムと一緒にいると、どうしても自分のこどもの事を思い出してしまって。今まではできるだけ、考えないようにしてたんですけどね。
サムをね、抱っこしたんです。
そしたら、抱っこをしてた記憶がね、甦るんですよ。こんなことをしてたなぁって。
今でもね、抱っこした感覚があるんですよ」
手を前に出して、その感覚を確かめると、目頭が熱くなる。捕らわれそうな気持ちを、出した手を下に下ろすことで、振り払う。
実弥さんは何も言わない。
そのまま独り言のように、話を続ける。
「あまりに年齢が近かったから…でしょうね。たぶんそれで私の記憶が刺激を受けたのかなぁって、今考えればそう思うんです。
だから、そのあと、蜜璃ちゃんと行ったいくつかのお店で、記憶にある風景が、あって…
ポンポンって、思い出すんです。だから、そこでまた思い出して。蜜璃ちゃんから声をかけられるまで、何だか色々と考えてたんですよね。
私、ここで何してるんだろうって」
ふぅと深呼吸をして、話を続ける。
「それとね、さっき一人でいた時に実感したんです。私、この世界で何もできないんだなぁって。この世界に突然放り出されて、みんなのお陰で何とか生活できるようになって、ここでも生きていけるかもって、思ってたんですけどね…
それは違いましたね。私、やっぱり何にもできないんだなぁって。
役にたてないし、心配かけるし。結局今日は実弥さんの手まで取らせちゃいましたし。
私は今、色んな人に助けて貰ってるから、生きていけてるだけであって、自分の力じゃ生きていけないんですよね。
そんなことを考えてたら、ちょっとね、私、やっぱりこの世界に来たのが間違いだったんだろうなぁって思って。
私がいなくても、ちゃんとみんな進んでいくし。
こんな中途半端な私は、みんなの足手まといになるばかりだし。この世界で、誰からも必要とされてないし、私はここで必要じゃないのかなぁって…」
また目頭が熱くなり、胸がギシギシと締め付けられる。だけど、反対に、少しふわりとした感覚が私を包んだ気がした。