第14章 お出かけの続きを
「そうですか。実は、あなたが着物を見ている姿がとても綺麗で、ついつい声をかけてしまったんです」
「綺麗だなんて。さっきから素敵だの綺麗だの、もう、すみません。いいんですよ、お世辞でも嬉しいです。もうその言葉だけで充分です。でも、全然そんなことはないんで。しかも、誉められても、もう全く手が出ないので…でも、褒められると嬉しいので。ありがとうございます」
「いや、本当に…」
男性は何か言いかけていたが、その言葉は蜜璃ちゃんの声で書き消された。
「ノブちゃーん。お待たせッ!あら?勇一郎さん。今日はいないと思ったら、ノブちゃんとお話ししてたのねー!」
「すみません、甘露寺様。いつもありがとうございます。今日は在庫点検をしていまして…」
勇一郎さんは蜜璃ちゃんの方に向かって、軽く会釈をする。ここの責任者なのだろうか。蜜璃ちゃんの口ぶりからすると、いつもはこの人が対応してくれているのだろう。そりゃ、これだけの値段の着物をポンッと買うのだから…上客だ。大事にしないといけないのは、私でも分かる。
「ふふ。いいのよ。じゃあノブちゃん、お待たせ。次に行きましょう」
「うん。えっと、勇一郎さんでしたっけ?すみません、ありがとうございました」
そうお礼を言い、勇一郎さんに向かって会釈をする。
「いえ、こちらこそ。ありがとうございました。またぜひお越しくださいね、甘露寺様、ノブ様」
勇一郎さんは、そう言い、私たちを見送ってくれた。私の名前まで覚えていたのには驚いた。やはりちょっといいところのお店の店員さんは、私と蜜璃ちゃんとの会話もきちんと聞いていて、私の名前を確認したのだろう。そして最後にしっかり使う。
名前を呼ばれるとちょっとだけ特別感が出るし、いい気分にもなる。常連じゃないのに、常連さんの気分だ。また来ようと思ってしまう。恐るべし、対応力…
そんなことを考えながら、店を出た。