第13章 迷子
「ハッハッハ。ゼンゼンヤスイ!ダイジョウブ」
「流石、旦那!じゃあ二人も西瓜でいいね」
「スイカダケダト、ヤスイカラ、ホカモ…」
「…いやいや!西瓜だけで十分です!西瓜でお願いいたします!」
まだこれ以上追加されては、困る。話している途中だったが、焦りながら断った。話終わるのを待ってたら、八百屋のおじさんが、これはどうだ?とか言って、勧めてきそうだ。
「そうなのかい。この桃とか、他の野菜も美味しいんだけどなぁ」
非常に残念そうな顔をした八百屋のおじさんが呟く。
危ない危ない。私の思った通りだったようだ。
「おじさん、西瓜はまだ置いててもいいかしら?今からご飯も食べて、お買い物にも行くから。西瓜を持ってだと、色々まわれないから」
蜜璃ちゃんが笑顔で八百屋のおじさんにお願いすれば、おじさんも二つ返事だ。
「ああ。いいさ。帰りに寄ってくれ」
「ありがとう」
満面の笑みでおじさんにお礼を言えば、おじさんは蜜璃ちゃんにメロメロのようだ。
「ノブ、ミツリ、ホントウニアリガトウ」
サムのお父さんから声をかけられ、そちらを見れば、サムも、サムのお母さんも一緒にいた。
「いえ、こちらこそ、お礼まで頂いて、申し訳ないです」
「ノブ、ミツリ、アリガトウ」
サムが笑いながら言う。その手は母親の手をしっかり握っている。
「もう迷子になっちゃ、ダメよ。お母さんの手を離さないようにね!」
「またね、サム。楽しかったわ」
私と蜜璃ちゃんの言葉を、お父さんがサムに通訳してくれているのだろう。お父さんの話を聞いたあと、私の方を向いてしっかりと頷いた。
「デハマタ、ドコカデアウヒマデ。サヨウナラ」
「さようなら」
「またね、サム!」
サムは左手で何度も振り返りながら、手を振る。右手は母親としっかり手を繋いだままだ。
両親も見えなくなるまで何度も振り返り、母親は頭を下げ、父親は手を振る。
私達も三人が見えなくなるまで、何度も手を振り、時々頭を下げた。