第13章 迷子
「ホントウニアリガトウゴザイマス。ノブサン、ミツリサン。アリガトウゴザイマス」
サムから名前を聞いたのだろう。名前で呼び掛けられ、何度もお礼を言われる。父親は日本語ができるようだ。
「いえ、こちらに来る途中でしたのでそんなに大それたことはしていませんよ。それよりサムがご両親の元に戻れたので、良かったです」
「ホントウニアリガトウゴザイマス。カイモノニキテイタノデスガ、メヲハナシタスキニ、イナクナッテシマッテ…オフタリガイナケレバ、ミツカラナイママデシタ」
「このくらいの年齢の子は、興味のあるものにどんどん目移りしていきますもんね。今度はサムの手を離さないようにしてくださいね」
笑顔で伝えれば、父親は大きなリアクションを取る。
「ソウデスネ!テヲハナサナイ!ソウシマス!」
「目が届かなくなるときは、ぜひそうしてください」
初めて知ったことのように驚く父親に笑いが込み上げる。父親も私を見て笑い出す。絵にかいたような、ハッハッハーッと言った台詞が似合うような、豪快な笑い方だった。
その様子に蜜璃ちゃんもクスクスと笑いながら、私に耳打ちする。
「サムのお父さん、とってもおもしろいわね」
「そうね」
そう返事をすると、袴を引っ張られる感じがした。その方を見れば、サムがいた。いつの間にか母親の腕の中から、地に足をつけていて、私の側まで来ていたのだった。膝を折り、サムの目線に合わせて声をかける。
「ん?サム?どうした?」
「ノブ、ミツリ、アリガトウ」
サムは今までで一番の笑顔で、私と蜜璃ちゃんの顔を見ながら言う。日本語はほとんど分からないだろうから母親にでも聞いたのだろう。たどたどしく言ったお礼の言葉は、どんな言葉よりも嬉しさが込み上げてくる。
「サム、こちらこそありがとう。大好きよ」
そう言い、サムを抱き締める。サムの小さな腕が背中に回されれば、何とも言えない気持ちになる。
「じゃあ、またね。バイバイ」
抱き締めていた手を離し、サムを見ながら伝える。
「バーイ」
片手をあげて、笑うサムは、同じ歳の日本の子どもにはできない。
私の中のイメージの、ザ、外国人!だ!
そんな状況に苦笑いしかでない。
「サム、やっぱり何か違うね」
蜜璃ちゃんも日本人とは違う雰囲気を感じたのだろう。驚いていた。