第3章 お屋敷
【実弥side】
「実弥さぁ~ん」
間抜けな声が聞こえる。風呂から上がったなら、それだけ言えばいいのに、またも俺を呼ぶ声がする。
「実弥さぁ~ん。どこですかぁ?」
また面倒な事が起こるのでは、と思いながらも、部屋から出る。
「煩いッ!聞こえてる!そんなに何度も呼ぶなァ」
廊下にでたところで声のする方を見ると、すごい格好をしたノブがいた。俺の浴衣だから大きいのは分かるが、裾を引きずり、前は片手で掴んでいるだけ。胸の辺りはかなり開いているし、足も太ももあたりから見えている。
さっきまでは所々汚れていた顔はきれいに落とされ、素顔が分かる。風呂上がりの頬は火照っており、洗った髪から落ちる雫も相まって妙に艶かしい。
「ごめんなさい。聞きたいことがありま…」
「お前は何でそんな格好をしてるんだァ…」
何でこいつは、こんな短時間に何度も何度も面倒なことができるのか。
ノブが言っている途中で口を挟む
「あの、浴衣が着れなくて…。着方が分からないんです。実弥さん、大変厚かましいんですが、着せてもらえますか?」
「……」
こいつは何を言っている?
俺に浴衣を着せて欲しい?
風呂上がりの艶かしい格好で来て、何てことを言うんだ。いくらおかしな奴だと思っても、そんな格好して近くに寄れば、流石の俺でも変な気持ちになる。
何なんだこいつは。俺を何度も何度も混乱させやがる。
ふと、袖を引っ張られ、現実に戻る。あまりの衝撃に固まってしまっていたようで、焦る。
「実弥さん、聞いてます~?」
ニヤニヤと笑いながら、俺の顔を下から覗き込まれる。
「おい、何笑ってんだァッ!」
ノブを見ると、ちょうど上から胸の辺りを覗き込む状態なので、横を向く。
さっき考えていたことも見透かされていそうで、顔が見れない。
「笑ってませんよぉ!それより、さっきの話し聞いてました?」
「…何で俺なんだァ?」
この、一言に尽きる。
「この家、実弥さん以外に誰かいます?」
「いや、いない…」
誰かいれば俺には聞かないだろう。自分で聞いておきながら、妙に気恥ずかしくなりまた横を向く。
「実弥さんしかいないんですよ。このままだと私、寝るときもずっとこのままの状態なんです。助けて下さい~」