第3章 お屋敷
【実弥side】
「浴衣の着方も覚えてないのかァ?」
記憶がないとは言え、普段していたことなら、体が覚えていそうだが。
「普段はいつも洋服ばかりで。浴衣は着たことはあるんですけど、それも着せてもらった記憶しかなくて…変なお願いしているのは重々承知してます。それこそ、お願いするのも恥ずかしいんですけど。もう、頼れるのは実弥さんだけなんですッ!お願いしますッ!」
「…分かった。でも、自分でしろよォ。説明するから」
深々と頭を下げるノブに言う。
仕方ない。だが流石に近寄るのはごめんだ。
「ありがとうございます。がんばります!」
こいつは、返事だけはいい…。
「じゃあ、まずは両手で浴衣の端の方を持てェ。そして、先に右手の方を体の前に。足元の長さを調整しながらだ」
ノブを見ながら説明する。本当に浴衣を着たことがないのだろう。説明されたことを復唱しながら、手を動かしているが、何だかおかしい。
「はぁーい!両手で持って、右手を前に…」
こともあろうことか、俺の前で浴衣を全開にしている。ノブの裸が視線に入る。
本人は全く気付いていないようだ。思わず目を反らし、大声を出す。
「おいッッ!!!」
「へっ?」
ノブは大声に驚いたのか、変な声が出たが、その後の言葉が俺を呆れさせる。
「ひゃあ!ごめんなさい!!変なもん見せちゃいましたね。あー本当ごめんなさい。色々と考えながらすると、やっぱり疎かになりますね」
横を向いたままため息をつく。
何なんだこいつは。裸を見られても動揺すらしていない。それよりも、裸を見せられた俺の方を気遣うとか、普通はないだろう。
ますますこいつが分からねぇ。