第12章 お出かけ
【実弥side】
ノブが台所へ戻ってきた。いつもの顔だ。その顔を見てほっとした。
「実弥さん、すいません。そのまま置いてもらってて良かったんですよ。あとはやりますから、もう実弥さんは休んでください」
「いや。もう最後まで終わらせる。あと少しだしなァ、ノブは皿を拭けばいいだろォ。早く終われば、出かける準備もできるだろうがァ」
いつもなら言わないだろうことも、少しの罪悪感が言わせる。ノブは当たり前のように横に来て、俺の顔を覗きながら言う。
「ふふ。ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます。お土産におはぎ、ちゃんと買ってきますね」
「忘れんじゃねぇぞォ」
「はいッ!」
二人ですれば、少しの皿だ、すぐに片付く。部屋に戻ろうとすると、声をかけられる。
「あ、実弥さん。お昼ごはんは簡単なものですけど、ここに準備してますから、起きたら食べてくださいね」
こんな時まで昼の食事の心配かァ。俺は勝手にできるのに、そこは譲らねぇよなァ。ちゃんと三食準備して、家のことも終わらせて…
何もせずに、何も考えずに、ただ楽しく行ってくればいいものの…まぁ、それがノブなんだろうなァ。
「あぁ、わかった。俺はもう寝るからなァ。甘露寺に迷惑かけんじゃねえぞォ」
「分かってます。おやすみなさい、実弥さん。それと早いですが、行って参ります」
軽く頭を下げながら、ノブは言う。いつもと違う、言葉だ。
「気をつけて行ってこいよォ」
ノブがいつも言うように、送り出す言葉を紡ぐ。
ノブが言うよりは荒いがなァ。
迷子にならずに帰ってくるよう、ノブの頭を軽く叩いてそのまま部屋に戻った。