第12章 お出かけ
「実弥さん、教えてくれてありがとうございます!早速落としてきますッ」
そう言って、早足で顔を洗いに行く。念入りに口元を洗えば、もう落ちたようだ。
「良かったぁ」
顔を拭き台所へ戻れば、実弥さんがお皿を洗っていた。
「実弥さん、すいません。そのまま置いてもらってて良かったんですよ。あとはやりますから、もう実弥さんは休んでください」
「いや。もう最後まで終わらせる。あと少しだしなァ、ノブは皿を拭けばいいだろォ。早く終われば、出かける準備もできるだろうがァ」
実弥さんなりの優しさに、嬉しさが込み上げる。
「ふふ。ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます。お土産におはぎ、ちゃんと買ってきますね」
「忘れんじゃねぇぞォ」
「はいッ!」
二人ですればすぐに片付いた。部屋に戻ろうとする実弥さんに声をかける。
「あ、実弥さん。お昼ごはんは簡単なものですけど、ここに準備してますから、起きたら食べてくださいね」
「あぁ、わかった。俺はもう寝るからなァ。甘露寺に迷惑かけんじゃねえぞォ」
「分かってます。おやすみなさい、実弥さん。それと早いですが、行って参ります」
軽く会釈をしながら、いつもと違う言葉を言う。いつもは実弥さんが言う言葉だ。
「気をつけて行ってこいよォ」
実弥さんはそう言い、私の頭にポンポンと優しく手を載せて、通り過ぎていった。
気をつけて行ってこい…この言葉は少々荒いけど、言われると、とても嬉しい言葉だ。
ここに帰ってきていいんだと思える。それにしても、いつも実弥さんは自然に恥ずかしげもなく、できるんだろう。
「…やっぱり天然のタラシだぁ…」
ボソッと呟く私の頬は、紅をさしたように染まっていたのだった。