第12章 お出かけ
「え?言ってますよ!まさか気づいてないんですか?卵焼き食べるときは、毎回ブツブツ言ってますよ」
「……」
睨んでいた顔は、私の言葉に驚いたようで、何も言わなくなった。この反応は、本当に気づいてなかったのだろう。
「気づいてなかったんですね。じゃあ本当においしかったってことですね。嬉しいですね~」
「……」
顔は少し横を向き、ばつが悪そうな表情をしている実弥さんは、全く喋らない。都合が悪くなるというか、核心をついたというか、そんな時はいつも黙りこむ。実弥さんらしいっちゃらしいんだけど、ちょっと長男に反応が似ている。
「ほらほら、もう、少しは喋ってください!」
「……」
「もう。都合が悪くなると、黙るのは子どもみたいですよ」
「誰が子どもだァッ!」
子どもと言われるのは、やっぱり嫌なようだ。怒ってやっと声が出た。実弥さんが黙ってる時とかは、この作戦がいいだろうと、勝手に思う。
「やっと喋ってくれましたね。ふふっ。そうだ!実弥さんに聞きたいことがあったんです。大丈夫、ご飯のことじゃありません。隣町のことです。隣町のおすすめの甘味屋さんはどこかありますか?せっかくなので、買ってこようかと思ってて」
実弥さんの表情が更に睨みをきかせたものになりつつあったので、隣町の事だとすぐに言うと、睨まれなくなった。まだ顔は怖いから、怒ってるんだろうなぁ。
「隣町だったら、花田屋だなァ」
「じゃあそこでお土産買ってきますね」
にっこりと笑いながら言う。
「…あぁ」
少し顔を反らしながら答える実弥さんは、かわいらしい。要らないとは言わないところから推測すると、花田屋さんは、おいしいのだろう。更に口角が上がったのが、自分でも分かる。それに気づかれないように言葉を発する。
「たくさん喋りすぎましたね。さぁ、片付けて、仕事仕事!」
「そうだなァ」
そう言い、二人とも立ち上がり、皿を運ぶ。
それが終われば、それぞれの仕事をこなしていくのだった。