第12章 お出かけ
夕方、蜜璃ちゃんからの返事を持って、木蓮は帰ってきた。
「ノブ、恋柱様カラノオ返事」
「ありがとう、木蓮」
「楽シミダト言ッテタワ」
「本当に?嬉しいなぁ。今日もありがとう、木蓮。ゆっくり休んでね」
「エエ、オヤスミ、ノブ」
その言葉を聞くと、木蓮は飛び立ちまた空に消えていった。
早速手紙の返事を見る。
待ち合わせについて書いてあった。
朝9時頃に、お屋敷まで迎えに来てくれると書いてある。洋食屋以外にもお店が色々あるから、どこか行きたいところを考えてて、とも書いてあった。
うーん。隣町のことは全く知らない。
洋食屋があるのも、蜜璃ちゃんから聞いたから知っただけだ。あとは華子さんの甘味屋の仕入先、としか情報はない。
行きたいとすぐに思い付くのは、甘味屋さん位。
何か欲しい訳ではない。まぁ、何か欲しい物があったとしても、居候生活の身だ。贅沢なんて言ってられない。
毎日買い物には行くし、近くで事足りる。
せっかく隣町までいくのだから、料理に使えるもので、何か珍しいものでもあれば、買いたいかな、とは思う。でも、そこにはわざわざ行かなくてもいいのだ。ふらっと立ち寄るだけでいい。
せっかくだから、甘味屋さんは連れていってもらおう。実弥さんへのお土産は買いたい。でも、どこがいいだろう。
「明日実弥さんに聞くかなぁ」
たぶん、実弥さんならどこが美味しいとかは知ってるはずだ。誰もいない部屋に声が消える。
ふと外に目線をやれば、もう太陽が沈む所だった。空はいつの間に夕焼け色に変わっていた。
隣の部屋の襖が開く音がする。
鬼達の、そして鬼殺隊の時間が、今日も始まる。
「行ってらっしゃいませ」
「行ってくる」
いつも通り、実弥さんを見送る。
今日も無事に帰ってきてくれる様に祈りを捧げる。
何も変わらない毎日だ。
藤の花のお香の匂いが、風と一緒に部屋に流れ込む。外に目を向ければ、綺麗な朱色の夕焼けは、全てを覆い隠す黒色に飲まれていたのだった。