第11章 炎柱
ふぅ、と一息つく。
涙はやっと落ち着いたようだ。気持ちの整理もできた。さすがにこのままじゃ、と思い顔を洗いに部屋から出る。
顔を洗って、途中だった洗濯物に戻る。実弥さんは稽古を再開したようだ。洗濯物がゆらゆらと動いている。
「木蓮、ごめんね。待っててくれたのね、ありがとう。お館さまに、ありがとうございましたと、伝えてもらえる?」
「分カッタワ」
そう言うと、すっと、青空に吸い込まれるように飛び去っていった。
黒い姿が見えなくなると、残りの洗濯物に取りかかる。
「本当洗濯日和。天気がいいから、今日はすぐ乾くなぁ」
最後の洗濯物を干し終わり呟く。
そこからはまたいつもと変わらない。
気づけば夕方になり、実弥さんが鬼狩りに行く時間だ。
「いってらっしゃいませ」
「行ってくる」
あと何度このやり取りを繰り返せば、無惨を倒せるのだろう。そして、空に向かって、実弥さんが今日も無事に帰ってくるようにと、願いを込めて祈る。
バサバサという羽音と共に、木蓮が空から降りてきた。足には何か持っているようだ。
もうすぐ暗くなるから、飛ぶのは大変だっただろう。
「どうしたの、木蓮。もう暗くなるのに飛んで大丈夫なの?」
「大丈夫ヨ。夜モ飛ベルワ」
「なら良かった。無理して飛んできたかと思ったから」
「ゴ心配、アリガトウ。アト、コレヲ。オ館サマカラノ手紙ヨ」
そう言うと、フワッと飛んで私の目の前まで来る。そして足で掴んでいた手紙を私の前に置いた。
「ありがとう。今日はたくさん飛んだから大変だったでしょ?ゆっくり休んで」
「鴉ハ、イツモ飛ンデイルカラ、大丈夫ブ。今日モソンナニ飛ンデナイワ。デモモウ寝ルワ。オヤスミ、ノブ」
「ありがとう。おやすみ、木蓮」
そう言うと木蓮はもう暗くなった空へと飛び立つ。すぐにその姿は夜の空に溶け込み、分からなくなった。