第11章 炎柱
突然、けたたましい鳴き声と共に、それは聞こえてきた。
「炎柱、煉獄杏寿郎、上弦ノ鬼トノ戦イデ、瀕死ノ重症。瀕死ノ重症」
…炎柱煉獄杏寿郎、上弦の鬼との戦いで、瀕死の重症…
爽籟の言葉を、反芻させる。
爽籟が実弥さんの近くで言ったのだろう。ここまではっきりと聞こえた。私の元にも空からすっと木蓮が降りてくる。
「炎柱、煉獄杏寿郎、上弦ノ鬼トノ戦イデ、瀕死ノ重症。瀕死ノ重症。オ館サマカラノ伝言ヨ。デモ、大丈夫ダト」
瀕死の重症…でも、大丈夫。大丈夫だ。大丈夫なんだ。
木蓮の言葉を、自分の中で反芻させる。
自分自身に言い聞かせるようにだ。
「良かったぁ~」
その言葉を聞き、へなへなとその場に座り込む。
「大丈夫ッ?ノブッ!」
「ははは。大丈夫よ、木蓮。ちょっと安心して、気が抜けちゃったみたい」
そう言うと、頬を冷たいものが伝う。知らぬ間に涙が出ていたようだ。無意識に出た涙は、止めどなく流れ続ける。
「涙ガ出テルワヨ」
「大丈夫。安心しただけだから。ありがとう、木蓮。ちょっと部屋に戻るわ」
涙を拭い、立ち上がる。洗濯物はそのままに、一度部屋に戻る。その間も涙が溢れ続ける。
「大丈夫だった」
誰もいない部屋の中で、大きく息をつき、一言呟く。
まだ涙は止まらない。
自分では全く気づかなかった…いや、気づかないようにしてたのだ。
随分と心配だった。
一気に気が抜けた。
「はぁー、本当に良かった」
本当に良かった。何かは分からないけど、お館さまは何か手をうってくれたようだ。瀕死の重症ということは、物語の大きな変更をするような策ではなかったのだろう。
煉獄さんは、命は繋ぎ止めたが、鬼殺は、もう無理かもしれない。
引退、の文字が浮かぶ。
でも、命があれば、どうにでもなる。
生きてさえいれば、あとはどうにでもなるんだ。