第10章 秘密 *
実弥さんは昼前に起きてきた。先日までの眠そうな姿とは違い、よく寝れたようだ。
「おはようございます。よく寝れたみたいですね。スッキリした顔してますね~」
「なッ!」
「別に深い意味はないですよ。さぁ、お昼ごはん食べましょ。どうします?ここで食べます?部屋に戻ります?」
反応が可愛らしい。あんなことをしたあとだ。気まずい気持ちはあるだろう。
「いや、ここで食べる」
「じゃ、座っててくださいね」
今日はうどんだ。午前中に行った甘味屋で、華子さんが教えてくれたのだ。
「珍しいなァ、うどんか」
「ええ。華子さんから移動販売みたいな人がきてるって教えてくれたんです。珍しいから、買ってみました。さぁ、食べましょ」
「あぁ」
二人でうどんを啜る。思った以上に美味しい。
「実弥さん、これ美味しいと思いません?」
「ああ、うまい」
「次いつ来るのか聞き忘れた~!華子さんか、まぁ八百屋のおじちゃんに聞いたら分かるかなぁ」
「いつの間にか知り合いが増えてねぇか?」
怪訝そうに見ながら言う。
「毎日買い物に行きますからね。仲良くなった方が、色々教えてもらえて、いいんですよ。ほら、今日みたいな事だったり、普段は美味しい野菜の見分け方とか調理法とかも教えてくれるんですよ」
「俺より、馴染んでねぇかァ」
「ふふ。馴染んでますよ。ちゃんと実弥さんのこともいい人ですって、言ってますから、大丈夫ですよ」
「いや、それはわざわざ言わなくていい」
「ふふ。分かりました。ほどほどにしときます」
そんな会話をしながら、食べ進めるが、すぐになくなってしまった。
「ご馳走さまでした!さぁ片付けるので、実弥さんもお皿お願いしますね」
「あぁ」
そう言うと実弥さんも立ち上がり、食べ終わった皿を流しまで運ぶ。
「ありがとうございました!そうそう、実弥さん」
「ん?何だァ」
「気にしなくていいですからね。出したくなったら、またいつでも言ってくださいね」
ニヤニヤしているのが自分でも分かる。
「なッ!誰が言うかァッ!」
そう吐き捨てると、背を向け部屋に戻っていく。
焦って答える実弥さんは、可愛らしい。反応が若いなぁ。
これでいい。またして欲しいと言われればするし、何も言われなければ今まで通りだ。
そう思いながら、いつも変わらぬ家事をこなしていくのだった。