第3章 お屋敷
浴衣を羽織り、前で交差させ片手で持つ。反対の手で服と下着を持つ。手拭いは髪の毛を巻いている。
方向音痴の私は、厠に行ってしまったが、無事客間に戻れた。服を置き、洗った下着を干す。
帯を持って実弥さんを探しにもう一度部屋を出る。
玄関近くで声をかける。
「実弥さぁ~ん」
返事がない。聞こえてないようだ。
「実弥さぁ~ん。どこですかぁ?」
流石にあまり大声は出せないよなぁと思いつつ、先ほどより少しだけ大きな声をだす。
「煩いッ!聞こえてる!そんなに何度も呼ぶなァ」
客間とは反対側の廊下の奥から実弥さんが現れる。
「ごめんなさい。聞きたいことがありま…」
「お前は何でそんな格好をしてるんだァ…」
私が言い終わらないうちに、言われてしまった。
ものすごい呆れた顔で見られている…。開いた口が塞がらない。そんな状態。
そうだよね、変な格好だよね。でも仕方ないのさ、と変に気持ちを切り替える。
「あの、浴衣が着れなくて…。着方が分からないんです。実弥さん、大変厚かましいんですが、着せてもらえますか?」
「……」
流石に申し訳ないお願いなので、顔は見れない。
が、一向に返事はない。
あまりの沈黙に耐えきれず、実弥さんを見ると、驚いて固まっていた。鳩が豆鉄砲を食らった時は、こんな顔かもしれない。
「実弥さん?」
まだ返事はない。
流石の実弥さんでも、こんな風に固まることもあるんだなぁと呑気に思う。右手で実弥さんの袖を引っ張りながら、もう一度声をかける。
「実弥さん、聞いてます~?」
我に返ったであろう実弥さんは、珍しく慌てている。なかなか慌てる実弥さんは見れないので、頬が緩む。
「おい、何笑ってんだァッ!」
笑われたのが恥ずかしかったのか、実弥さんはそっぽを向く。
こんなとこはやっぱ二十代だよなぁ。こういう姿だけ見ると、本当かわいいよなぁおばちゃん根性丸出しだ!
「笑ってませんよぉ!それより、さっきの話し聞いてました?」
「…何で俺なんだァ?」
「この家、実弥さん以外に誰かいます?」
「いや、いない…」
実弥さんはまたそっぽを向いてしまった。
「実弥さんしかいないんですよ。このままだと私、寝るときもずっとこのままの状態なんです。助けて下さい~」