第9章 再びお館さまの元へ
「ノブ様、ノブ様、お屋敷に着きましたよ。起きてください!」
後藤さんの声で自分が寝ていたことに気づく。帰りも寝てしまったようだ。
「ごめんなさい、後藤さん」
そう言いながら、後藤さんの背中から降りると、後藤さんは私の方に振り返る。
「では、これで失礼いたします」
「後藤さん、本当にありがとうございました!あ、斉藤さんにもよろしくお伝えくださいね」
深々と頭を下げると、すぐに走って行ってしまい、姿はすぐに見えなくなってしまった。
「やっぱり早いんだなぁ、走るの…」
そう呟く。台所の勝手口を開け、お屋敷に入る。
「ただいま戻りました~!」
そう言うと、実弥さんが部屋から顔を出す。
「ん?泊まる、って言ってなかったか?…まさか、お前、お館さまに失礼なことでもして追い出されたのかァ」
そう言いながら部屋から出てくる。実弥さんら本当にそう思っているようで、顔は真剣だ。勝手に誤解されても困る。
「違いますよ。お子さん、お熱が出たみたいで。それで帰ってきたんです。失礼なことはしてませんよ。反対に意地悪された位なんですから」
「はァ?誰が意地悪するんだァ?」
本当に分からないようだ。
「いや、お館さまでしょ」
「アァッ!!お前、何を言ってやがる?お館さまがそんなことを言う筈ないだろうがァッ!もっとまともな嘘を言いやがれッ!」
実弥さんは声を荒げる。だけど、私は間違ったことは言っていない。私も少し大きな声で早口に言う。
「いや、本当ですって!いたずらっ子ですよッ!ってか、隠の人にも実弥さんの嫁って言われたんですけど…どんだけ噂が広がってるんですか?」
「はァ~ッ?何でそんな事になってんだァ?」
さっきまでの勢いと違い、眉間に皺を寄せて睨まれる。
いや、私のせいじゃない。
「いや、私に聞かれても…でも、お館さまが火に油を注いだ感じにはなってますね」
「はァッ?」
「いや、今日も実弥さんの事を頼む~とか、実弥さんの大切な人だから~とか、言ってるんですよ、私の事。しかも、それを私に対してじゃなくて、隠の方に言ってたんですって!お館さまがそんな風に言うから、柱の方だけじゃなく、他にも広がってるんですよ」
「……」
実弥さんは黙り混み、何か考えているようだ。