第9章 再びお館さまの元へ
本日二度目の後藤さんの背中に近づき、首元に手を回す。
「ではお屋敷までお送りします」
そう言うと、後藤さんは立ち上がりながら、私を背負い走り出す。
二回目の後藤さんの背中は慣れたものだ。
首元に回した手をしっかりと回し、後藤さんの背中にぴったりとくっつく。
そして、お館さまとあまねさまの事を思い出す。
まさか、こんなに二人と笑い合えるなんて思わなかった。本の中では一面的にしか見れないことが、よく分かった。
やっぱり色々な一面があるからこそ、人間らしいのだろう。
こうやって表面上は落ち着いてお館さまもあまねさまも過ごしているけど、お館さまは病気もある。お館さまとしての仕事もしなければならないし、子ども達も早く自立させなければならない。
たぶん、もうお館さまには最後の戦いのイメージはできいるのかもしれない。
それなのに、毎日をただ淡々と過ごしている。もっと荒れたり、精神的に不安定になってもおかしくないのに…
本当尊敬する、としか出てこない。
お館さまが、お館さまだからこそ、この鬼殺隊は何の躊躇いもなく、鬼殺隊としていられるのだろう。
すごいことだ。
ちょっとしたことでも、気になってしまうし、精神的にも不安定になってしまう私には、到底できることではない…。
だからこそ、私はお館さまとあまねさま、このお二人が、少しでも年齢相応の時を過ごして欲しいと思う。
今日のお二人はどうだったのだろう?少しはただの耀哉さまとあまねさまでいれただろうか。
どうしてもお二人は、お館さまとその奥様で見られる。仕方ないのだろうけど。
だからこそ、私はお二人と話す時は、気持ちは対等でありたいと思う。私は鬼殺隊員ではないのだし。
それに、これからの事を知っているからこそ、私が会う人達には幸せな時間を過ごして欲しい。年相応の、鬼の事を考えない、ただ楽しいと思える時間を…
そのためならば、私は何でもやろう。嫌がられてもおかしな奴だと思われてもいい。その一瞬だけでも楽しいと思えて、素の相手が見れるなら…
色々と考えていたが、適度な温もりと規則的な振動が、段々と私の意識を奪っていくのが分かる。どうも疲れているようだ。
「後藤さんの背中って、本当気持ちいいですね」
そう言葉を漏らす。
寝ちゃダメなんだけどなぁと思いつつも、睡魔には抗えず、意識を飛ばしてしまった。