第9章 再びお館さまの元へ
「たくさんお話しできましたし、忘れそうになってますけど、本来の目的は果たせましたので、私はそろそろ失礼しますね。お子さんも体調崩されてるようですし」
「本当すまないね。こっちから誘っておきながら…」
お二人ともすまなそうな顔をしている。
「そんなもんですよ。子どもは突然体調が悪くなるんです。だいたい楽しみにしてる日に熱だしたりするんですから。本当気にしないでくださいね。それより、早くお子さんの体調が戻るように祈ってますね。まぁ明日には元気になって、なんだったの~!ってなるかもしれませんね」
「本当ね。子どもって、そんなものよね。でもノブは本当に子どもがいるみたいに話すのね」
「えっ?あっ?」
墓穴を掘った…
「大丈夫だよ、ノブ。あまねはノブが40歳の記憶だけ持って、他の記憶はなくしてる事は知っているから」
私の方を向き、お館さまはにこりと笑う。
良かった。私の事をちゃんと説明してくれていたようだ。
「あ~なら良かったです。あまねさま、そうなんです。変な記憶しか持ってなくて…それすら記憶と言っていいものなのか分からないんですけどね…でも、そのお陰で、何となく母親の気持ちは分かりますよ~」
「ふふ。そのようですね。またゆっくりお話したいわ」
「はい。なので今日は帰ります。お館さま、いや、耀哉さま、あまねさま、今日はお招きありがとうございました」
お二人に向かって、手を前につき、深々と頭を下げる。そして、顔をあげると、これ以上できない位の笑顔を向けた。
「では、あまね、隠を」
お館さまの声に、あまねさまは返事をして、部屋を出ていく。襖が閉まるとお館さまはすぐに話し始める。
「ノブ、実弥のこと、頼むよ」
「ん?また、それですか?もう、嫁ではないですよ」
いたずらっ子が懲りずにまた言っているとちょっと素っ気なく答える。でも、次のお館さまの言葉を聞いて、お館さまが言いたいことは違うんだと分かった。