第9章 再びお館さまの元へ
「自分が思っている以上に、緊張してたようです…」
涙を拭いながら、お館さまに話しかける。
「仕方ない。一人の人間の命の話だ。そんなに軽い話でもない。ありがとう、ノブ。この話をどうするかは、私が決めさせてもらうよ」
「はい。お話しましたが、今後はお館さまに一任します。私が出来ることは、ここまでです」
涙を拭いながら、笑って答える。
「ノブは本当に強いね。もっと取り乱してもいいのに」
「いえ、歳が歳ですから。少しは落ち着いてないと、ですね。それに、私が取り乱した所で、なにかが変わるとも思えませんし」
「ふふふ。確かノブは四十だったかな?話していると、自分と変わらない位だと思うんだけどね。でも話しによっては、年下に思えたり、年上に思えたりもする。本当にノブはつかみどころがなくて困るよ。はははは」
お館さまとしては珍しく、声をあげて笑っている。お館さまもこんな風に笑うんだ、と少し驚いた。
「お館さまにそう言われると言うことは、そうなんでしょうね。お館さまにとって、お友達のような、妹のような、姉のような、って感じですかね、私」
「そうだね。ノブはね、特別だよ。鬼殺隊員でもないし、家族でもない。でも、話していても違和感がないんだ」
「お館さまも、まだお若いんですし。お館さまじゃなかったら、ただ家族のことだけを考えて、もっとお友達とかもいて、年相応にいられたんでしょうね」
「…そうだね。お館さまじゃ、なかったら、か。全く想像できないけどね」
お館さまは産まれる前から将来が決まっている。お館さまになる、長生きできない、無惨を倒す…それがずっと当たり前なのだ。
お館さまでなかったら、なんて考えることすらしない位、当たり前のことなんだ。
それって、ちょっと寂しくないか。お館さま、ではなく、産屋敷耀哉でいてもいいのではないか。