第9章 再びお館さまの元へ
後藤さんに背負われていると、実弥さんとお館さまのお屋敷に行った時の事を思い出す。
あの時は本当に何が何だか分からないまま、実弥さんに抱えられて行ったなぁと。
それに比べると、後藤さんから背負われているのは、なかなか心地がいい。
「あの~。ノブ様。着きましたよ。起きてください」
後藤さんの声が聞こえて、ふと意識を取り戻す。あまりの気持ちよさに、寝てしまっていた様だ。
「あ~!ごめんなさい、後藤さん。あまりにも後藤さんの背中が気持ちよくて…どうも意識を失っていたようですね…本当にすみません」
後藤さんに背負われたままなので、あまり下げられないが、何とか後藤さんの顔の横で頭を下げる。
「いや、私は大丈夫です」
「えっと、私はそろそろ降りてもいいですかね。さすがに背負われたままだと恥ずかしいです」
もうお館さまのお屋敷の敷地内だ。後藤さんも走らずに歩いている。
「お屋敷までもう少しありますが、歩かれますか?」
「はい」
誰かに見られている訳ではないけど、やっぱりおんぶは恥ずかしい。走っているならまだしも、ただ歩いているだけだと、余計にだ。
後藤さんは私がおりやすいようにと、中腰になる。久しぶりの地面だ。
「こちらです」
後藤さんのあとについて歩き出す。先ほどまでの温もりが一気になくなり、少しだけ寂しさが残る。
「背負われるのは恥ずかしくてたまらなかったんですけど、くっついてた分、離れると何だか寂しいものですね~。後藤さんの背中、とっても気持ちよかったです」
正直な感想を伝える。
「…ありがとうございます」
少しだけ間の空いた返答が気になり、後藤さんを覗き見る。黒い布で覆われてない、少しだけ見える顔が、若干赤くなっていて、目も泳いでいる。
あ!うん。私、変なこと言ったな、これ。
「ごめんなさい。変なこと言いましたね。気にしないでくださいね。深い意味はないです!正直な感想です」
「…いえ、お気になさらずに。私も気にしてませんので。…まぁ、ちょっと驚きはしましたが」
「…本当にすみません」
謝りの言葉しか出てこない。微妙な空気のまま、しばらく歩く。喋ると変なことを口走りそうで、黙ったままだ。
そんな雰囲気だから、長く感じたが、実際は5分も歩いてないだろう。木々を抜けると、突然お屋敷が現れた。