第9章 再びお館さまの元へ
「いや、嫁ではなく、ただの居候なんです。だから大丈夫です」
これからこうやって何度訂正すればいいのだろうか。隠にまで広がってるなんて、人の噂って怖い。
「いや、お館さまからも風柱様の大切な方だと伺ってしていますので」
元凶がいたよ。お館さまだよ。絶対分かってて言ってるよね、これ。
「いや、違うし。ただの居候だし。嫁でも大切な人でもなんでもないんです!」
「ノブ様は否定されても、お館さまから言われておりますので」
けっこう頭が固いのか。いや、お館さまが悪いな。鬼殺隊の中で、お館さまの言葉を否定する人はそんなにいないだろう。会うことすらほとんどないだろうし。
これ以上言っても議論は平行線を辿るだけだ。仕方ない。
「嫁でも大切な人でもないですからね。はぁ。とりあえずよろしくお願いします…」
「はい、ノブ様」
とりあえず最後に訂正するものの、私の言葉は全く響いてないようだ。
「ではどうぞ」
後藤さんはそう言いながら、私の目の前で後ろ向きになり、膝をつく。
おんぶだ。
よくよく考えると、この歳で背負られるのも恥ずかしい。
「えっと、私は後藤さんに背負ってもらうんですよね…」
一応聞いてみる。
「はい。なので、ご遠慮なさらずどうぞ」
そうは言われても遠慮するさ、と思う。でも背負ってもらわないと、お館さまのお屋敷には行けない。
恥ずかしさを飲み込んで、後藤さんの背中に体を預ける。
「では出発致します」
すっと立ち上がり、声をかけられたと思ったら、すぐに後藤さんは走り出す。
「ひゃあ」
意外と速い走りに、後藤さんの首に手をしっかりと回し、後藤さんの背中にぎゅっと体を密着させる。
「すみません。大丈夫ですか」
「はい。大丈夫です。思ったより早くてビックリしました。ごめんなさい。ちょっと思ったよりも振動があるので、くっつかせてもらってます」
「大丈夫です。しっかりと掴まってて頂いてた方がいいですよ。背負われると振動がすごくて、中には酔ってしまう方もいらっしゃいますから」
「…はい。では、遠慮なく」
前回お館さまのお屋敷に行った時の事を思い出す。酔うのはかなりきついので、ごめんだ。
回した手をほんの少しだけ強く掴み直す。顔も後藤さんの頭にくっつけると、頭の振動が収まる。これで少しは酔わないですむのではないだろうか。