第8章 恋柱
【実弥side】
「いつもより多めだァ」
ふと言葉がこぼれた。何でこんなことを言ったんだ、俺は。振り向こうとするノブの姿が目に入り、とっさに目をそらす。
「了解しました~!」
気の抜けた返事だァ。すぐに台所に向かって歩きだしたのは、俺が気まずいと気づいての事だろう。
こいつは、妙に勘がいい。
一旦部屋に戻って着替え部屋を出ると、騒がしい声が聞こえてきた。
「ありゃー!!大変、大変ッ!……これは、私の分だなぁ…」
「相変わらず一人言が多いなァ」
今できた卵焼きをつまんで食べる。
焦げてると言っていたが、焦げているうちには入らない。
「あー!それ焦げてるから、私の分にしようと思ってたのに…」
「ん。うまい」
腹が減ってたようだ、手が止まらない。
「もう、行儀悪いですよ。そこ、椅子があるでしょ。座ってください。すぐ準備しますから」
言われるがまま、椅子に座り、できていた卵焼きを頬張る。
「ん。うまい」
思わず声が出る。こいつの作る卵焼きはうまい。お袋が作ってくれた味に似てる。
黙々と食べ続けると、また卵焼きが追加される。
「さぁ、これで全部です。しっかり食べて、鬼狩りに備えてくださいね」
片付けをしようとするノブに、つい声が出た。
「お前も座れェ」
「まだ片付けが残ってますから。実弥さん、好きなだけ食べてください」
いつもこうだ。お袋も自分は残り物で、先にみんなを食べさせていた。女はそれが当たり前なのかもしれないが、今日は何故か一緒に食べてみたいと思った。
「片付けは後からでもできるだろォ。本当全部食べちまうぞォ」
この卵焼きは温かい方がうまい。それだけだァ。
…他に理由はねェ。
「実弥さんのために作ったんですから、全部食べてください。私は気にしなくていいんですよ」
「何度も言わせるなァ!」
「はいはい。分かりました」
段々と俺が苛立ってきたのが、分かったようだ。自分の分を準備して、向かいの椅子に座った。