第8章 恋柱
【実弥side】
30分位経っただろうか、段々と二人の声が響いてきた。甘露寺が、帰るのだろう。
ちょうど部屋に戻ろうとしていた所で、甘露寺に声をかけられる。
「あ、不死川さ~ん、お邪魔しましたぁ!またノブちゃんに会いに来てもいいですか?」
部屋の中だと言うのに、甘露寺は大声で手を振っている。こういうところが馬鹿っぽい。
「…来る前には必ず連絡してこいッ!」
駄目だと言っても無駄だろう。
二人とも、話ながら手を振り続ける。こんなところ、バカっぽいところが似てるんだろうなァ。
そんな事を考えながら、ノブの後ろで甘露寺を見送る。
もちろん俺は手なんて振らねェ。
扉が閉まると、ノブは急に振り返る。俺がいたことに少し驚いているようだ。
「実弥さんも見送ってくれたんですね」
「まぁ、一応知り合いだしなァ。それにしても、お前らどんだけでけぇ声で笑うんだァ?道場まで聞こえてたぞォ」
「そんなに響いてました?ごめんなさい」
「いや、謝らなくていい。楽しかったかァ?」
「はい。久しぶりにあんなに笑いました。お陰で煉獄さんと悲鳴嶼さんと伊黒さんのことがよく分かりました。悲鳴嶼さん、とってもお強いのにお隣のお婆ちゃんに追いかけ回されたって…ふふふ…」
煉獄は継子だからわかるが、悲鳴嶼さんに伊黒か。馬鹿笑いが聞こえたが、全く内容のない話をしていたのが理解できた。まぁ、あれだけ馬鹿笑いしてたから、どう考えても真面目な話はしてないなァ。
「お前ら、何の話をしてんだァ」
呆れながらノブの顔を見る。
「蜜璃ちゃんのお話、ずっと聞いてましたよ。色々な事が聞けて、楽しかったです。実弥さん、ありがとうございました」
「あぁ?何でだ?」
突然の御礼に疑問しか出てこない。
「蜜璃ちゃんに会ってくれて。それにまた遊びに来ても良いって言ってくれました。居候させて貰ってるのに、ご迷惑ばかりかけてごめんなさい。でも、色々させて下さってありがとうございます。感謝しかないです」
余程嬉しかったのだろう。満面の笑みで、俺をしっかり見ながら話す。こうやって俺と面と向かって話すやつは少ないが、ノブは最初からこうだァ。
それに、居候とはいえ、俺は何も世話なんてしてねぇ。
まぁこいつに驚かされることは多いがなァ。