第8章 恋柱
「そう言えば、何でノブちゃんは不死川さんの屋敷に居候してるの?」
「私ね、記憶がないの。気づいたら実弥さんの屋敷の前に倒れてて。お館さまにも相談したんだけど、何故かは全く分からなくてね。お館さまの意向もあって、行く宛のない私を居候させてくれてるのよ」
蜜璃ちゃんの顔が一気に強ばり、そして泣きそうになる。
「もしかして、まだ何も思い出せないの?」
「ええ。でも、最初に隠の人に教えて貰ったから、日常生活に支障はないから大丈夫」
「寂しかったりしないの?」
蜜璃ちゃんは泣きそうな顔のまま、聞きにくそうに尋ねる。
「寂しくないと言えば、嘘になるかな。やっぱり寂しい。でも、ここで会った人達は本当に優しくて暖かくてね。寂しさを感じない位!実弥さんにお館さまにあまねさま、甘味屋のおじさんに華子さんとか。あと蜜璃ちゃんもよ」
にっこりと微笑みながら、蜜璃ちゃんの目をしっかりと見る。
「えっ?私も?」
「蜜璃ちゃんはここに来てからの初めてのお友達。会ってすぐに私の心配してくれて、家まで来てくれた。私、とっても嬉しかったんだから。ありがとう」
「ノブちゃ~ん。色々大変なのに、強いのねぇ。私も嬉しいよ。これからも私と仲良くしてねぇ~」
とうとう涙が溢れだした蜜璃ちゃんは、私に抱きついてくる。とっても感情豊かな人だ。そっと桃色の頭を撫でながら話す。
「こちらこそよろしくお願いします。まだ知らない事だらけだから、色々と教えてね。美味しい甘味屋さんとか、特に!」
「うんうん!いっぱい教えちゃう!」
ふと顔をあげれば、上目遣いで見つめられる。さっきまで泣いていたので目もうるうるしてて、あとはあの胸の開いた服だ。間違いなく、男性ならイチコロだなと思う。
「あとは、蜜璃ちゃんの好きな人とかね」
耳元にこっそりと告げると、蜜璃ちゃんの顔が真っ赤になる。
「ノブちゃん、その言い方可愛すぎだわ。反則よ」
「いや、今の蜜璃ちゃんの方が何倍も可愛いし!」
そう言うと、二人で顔を見合せ、笑い合う。久しぶりに大声で笑った気がする。子ども達とはいつもこうだったな、とふと思い出し、涙が少しだけ滲んだ。