第2章 暗闇からの光
「このまま外にいて話を聞いていても、埒があかない。一旦家に入るぞォ。歩けるかァ?」
「歩く以前に立てるかどうか…手を貸していただけますか」
「あぁ、もう面倒くせぇ」
「すみません」
頭を下げるしかなかった。
その状態のまま、体がふと上がった気がした。
気がしたのではなく、実弥さんから本当に持ち上げられていた。
所謂お姫様抱っこだ。
そりゃ体操座りの状態からなら、それが一番やり易い。でもよりにもよって、実弥さんが私をお姫様抱っこ。
何度目か分からないパニック状態に陥った。
「お願いですから、下ろしてください~。私、重いですからぁ~」
情けない声が出る。
「少し待ってて歩けるようにはならないだろォ。重くもない。大人しくしろ。あんまり煩いと落とすぞォ!」
「落とされるのは嫌です。静かにします」
ぐうの音も出ない言葉に、もう何も喋れなかった。
でも私は今日何度めかのパニック状態に陥った。心臓はドキドキを通り越して、バクバクしている。口から飛び出るんじゃないかと心配になる。
目のやり場にも困るが、目を閉じる訳にもいかない。顔はもちろん見れないので、腕に目が行ってしまう。鍛えられた腕は私を落とすような不安定さは全くなく、進んでいく。
腕にはたくさんの傷があった。この傷一つ一つが実弥さんが鬼と戦ってきた証拠なんだと思うと、悲しくなってしまった。
「ありがとうございます」
実弥さんは私を抱えたままでも、玄関扉を難なく開け、玄関先にゆっくりと下してくれた。
後々考えると、実弥さんにお姫様抱っこをしてもらえるなんて、とっても幸せな時間だ。
だが、この時の私はこの永遠にも近い時間がやっと終わり、心底安心していたのだった。