第8章 恋柱
「私は勝手口から入るので、少し待ってて貰える?」
蜜璃ちゃんの返事を聞くと、急いで勝手口から入り荷物を置く。そして、すぐに玄関へ向かう。
「お待たせしました。どうぞ」
「突然お邪魔してごめんなさいね。でもノブちゃんの居候先は大きなお屋敷ね。ご家族で住んでらっしゃるの?」
「いえ、独り暮らしだったの。今は私がいるから二人ね」
話をしながら客間へ案内する。
「えー!こんなに大きいのに一人暮らしなの?本当に大丈夫?」
「大丈夫よ。優しい方なので。蜜璃ちゃんも驚く位にね」
もう、ここまで来てしまったのだから仕方ない。蜜璃ちゃんは本当に私の事を心配してくれているのだから。
気持ちを切り替え、蜜璃ちゃんと実弥さんの驚いた所を見て、楽しませて貰うとしよう。
「えー?何なの、その思わせ振りな感じは?可愛くてキュンキュンしちゃう」
「いやいや、蜜璃ちゃんの方が可愛いから!こちらでお待ちくださいね。居候先の方には今から話してくるから、少し待ってもらわないといけないけど、いい?」
「大丈夫よ」
蜜璃ちゃんを客間に残し、実弥さんの部屋に向かうが、道場で稽古中のようだ。道場に向かうと、実弥さんはちょうど片付けをしていた。稽古中だと声がかけづらかったので、良かったと胸を撫で下ろす。だが、今からも一筋縄ではいかない。気合いを入れて、実弥さんに声をかける。
「実弥さん、ただいま戻りました。稽古お疲れ様です」
「おお。最近は迷子にならずに帰れてるようだなァ」
珍しく話してくれている。
「はい。あの、実弥さんにお願いがあるのですが…」
「何だァ?」
「お友達ができたんです。その子がどうしても実弥さんにご挨拶したいって言うので、今客間で待って貰ってるんです。会って頂けませんか?」
「はぁーッ?何で俺が会わなきゃならない」
「居候先の方がどんな方なのか確認したいそうです…」
意地悪な人だと疑われていることは言えない…。
「いや、何故確認されなきゃならねえんだァ?」
「…そこを何とかッ!お願いします」
「嫌だっつてんだろォ!」
道場から部屋に戻ろうとする実弥さんを追いかけながら、何度もお願いする。
「実弥さん、お願いします!話しはしなくていいんです。顔を出すだけで良いですから。お願いします!」
「会う必要はねぇ!」
振り向き、怒鳴られる。