第8章 恋柱
この世界に放り出されて、早くも二ヶ月が経とうとしている。流石にここでの生活も慣れてきて、最近では本格的に縫い物を始めた。
元々、縫い物は好きで、子どもの服を縫ったり小物を作ったりしていた。今は自分の服を作っている。流石に最初に着ていた服はだいぶヨレヨレし始めて、あまねさまに貰った服は綺麗すぎて普段なかなか着れてなかった。
華子さんも裁縫が得意なので、おはぎを買うついでに教えて貰った。服の生地を売っている店も華子さんが教えてくれた。
生地屋のおばちゃんも優しい人で、色々教えてくれたり、安く生地を売ってくれたりした。
何だかんだで、町にも馴染んでいる。
実弥さんとはほとんど変わらない。少しだけ実弥さんから話しかけてくれることも増えたかな、位だ。おはぎを一緒に食べたのも二回。
でもそれくらいがちょうどいいのだと思う。
私は実弥さんの家族ではない。ただの居候なのだから。
ここ一ヶ月程は家族の事を考える事も増えた。でも考えても考えても、何故ここに自分がいるのか、どうしたらいいのか、全く検討もつかない。考える度に夫や子ども達への申し訳なさが溢れてしまう。
最近はあまり深く考えないようにした。考えても自分では答えが出ないからだ。夫や子ども達との楽しかった思い出を脳裏に浮かべる。
いつかまた会えるのか。それともこのまま会えないままなのか。分からないからこそ、会えた時にどうしたいのか考えている。
子ども達には鬼滅の刃の世界に紛れ込んで、色々な登場人物に会ったと自慢してやろう、とか。夫にはハグとたくさんの謝罪とお礼を言おう、とか。
そんなことを考えるようになると、こちらの世界でも少しだけ地に足が着いた感覚になったのだ。覚悟ができてきたのだろう。遅いのかもしれないけど、私にはこれが精一杯だった。
私は出会う人に恵まれている。以前からだが、何となく私が関わる人は、私にとっていい人達ばかりだ。私を悪い方向へ引っ張って行く人はほとんどいなかった。いても、それをすぐに救ってくれる人が現れるのだ。
この世界に来てからもだ。
私は出会う人に、恵まれている。
こんな星の元に産んでくれた両親、ご先祖さまには、感謝してもしきれない。お陰でこんな状態の今でも、私は楽しく生きていられるのだから。