第7章 甘味屋
「実弥さん、おはぎは鬼狩りから帰った時に出してますけど、そのままで大丈夫ですか?何も言われないので、そのまま出してますけど…おやつに一個、鬼狩りの後に一個とかもできますけど」
「いや、今のままでいい。食べたくなったら言う」
先程までの穏やかな表情がいつもの固くなり、横を向く。
「はい。でも時々は一緒に食べたいので、今日みたいにお誘いしてもいいですか?」
「ああ」
照れ屋で優しい実弥さんは何だかんだ言いながら付き合ってくれる。たまには、私のご褒美として付き合って貰おう。
「実弥さん、今日は一緒におやつの時間を過ごせて、楽しかったです。付き合ってくれて、ありがとうございます。さぁ、元気になった所で、残ってる仕事を片付けますか!」
実弥さんに向かってお礼を言う。実弥さんは答えにくいだろうから、返事も聞かずに続けて喋る。
「夕食はいつも通りでいいですか?」
「ああ」
「また稽古が終わったら教えてくださいね。すぐ食べれるように準備しときますんで」
お盆に空になったお皿をのせ、立ち上がり、台所へ向かう。
「ノブ、いつもありがとうなァ」
実弥さんの声がして振り向くが、姿はない。恥ずかしかったのだろう。それでも口に出して言ってくれた事が嬉しくて、つい大声で返事をしてしまう。
「どういたしまして」
実弥さんには聞こえただろうか。実弥さんからのお礼の言葉は、私の心を温かくしてくれた。たった一言がこんなにも嬉しくて、また頑張ろうという気持ちにさせてくれる。
口に出された言葉の力は凄い。ましてやあまり誉めたりお礼を言う人じゃないから、余計にだ。少しは実弥さんの役に立てているのだろう。
そう思うと、顔がどんどん緩んでいく。こんな顔を斉藤さんに見られたら、気持ち悪いと頭を叩かれそうだ。
でも斉藤さんはいない。私は緩みっぱなしの顔のまま、家事をこなしていったのだった。