第7章 甘味屋
「ノブ、一息つくぞォ」
洗濯物を畳んでいる時に実弥さんから声がかかる。ちゃんと一緒に食べてくれるみたいだ。
「じゃあ、準備しますね。お茶でいいですか?」
「いや、抹茶がいい」
「…実弥さん、ごめんなさい。抹茶の入れ方わかりません。教えてください」
「斉藤から教えて貰ってないのか?」
「はい…すみません。でも、実弥さん。斉藤さんがいる時には抹茶なんて一言も言わなかったじゃないですか」
「…そうだったかァ?」
「そうです!」
「じゃあ、教えてやる。一回しか言わねぇから、しっかり覚えろよッ」
台所で抹茶の入れ方を教わる。実弥さんは慣れた手つきで自分の分を点てる。私も自分の分を点てながら、実弥さんに教えて貰う。
「こんな風に点てるんですね。作法とかあって難しいかと思ってましたけど、自分が飲む分はこれでいいんですね。おはぎと抹茶、楽しみです~。さぁ、早く食べましょう」
抹茶の香りを思いっきり吸い込めば、はやく甘いおはぎが欲しくなる。
「フッ。そうだな、食べるかァ」
お盆に二人分の抹茶とおはぎをのせ、私の部屋に行く。部屋にある小さな机に二人で座るのは、実弥さんの家に来てすぐの朝食以来だ。
「実弥さんと一緒に食べるのはニ度目ですね。あの時は実弥さんがご飯作ってくれましたよね~。もうすでに懐かしいです」
「お前は美味しいしか言ってなかったなァ」
「だって本当に美味しかったんですよ!実弥さんは何でもできて羨ましいと思ったんですから」
「最初は本当ひどかったもんなァ」
「仕方ないです!浦島太郎でしたからっ!」
「そこは開き直るとこじゃねぇだろォ」
実弥さんの言葉はいつも通りだが、表情が柔らかい。それを見て、私も笑顔になる。
「前向きに頑張ってるんですから。少しは誉めてくださいね。いつでもいいですから」
「誉めて欲しければ、自分からねだらない事だな」
「えー!じゃあ誉めて貰えないじゃないですか?残念。まぁ、いいです。実弥さんと一緒におはぎ食べれて、お話もできましたから」
目の前のおはぎを口に入れると、甘さが口の中に広がる。それだけで、もう幸せだ。
「お前は本当うまそうに食うなァ」
「だってこのお店のおはぎ、いやあんこ、最高ですもん」
「そうだなァ」
実弥さんも最後の一口を頬張ると、口元が緩み穏やかな表情になる。