第3章 煉獄家
2人は足を綺麗に洗った後、槇寿郎の部屋へ向かう。部屋の主は襖を開けてもこちらには背を向けたまま書物を読んでいる。
「父上。只今戻りました。藤襲山の最終選別を突破致しました。」
はきはきと杏寿郎が報告する。
「まだお前はそんなことを言っているのか。無駄なことに時間を使うな。」
槇寿郎は背を向けたままどうでもよさそうに言う。
少しの沈黙が流れる。
「後、そこで出会った友人を連れて参りました。今晩は泊まってもらおうと思います。」
杏寿郎はをちらりと見ながら言う。
「初めまして。です。早朝からお邪魔してすみません。お世話になります。」
声の主が少女であることに少し驚き、槇寿郎は顔をこちらへ向けたが、すぐに書物に目を向け言った。
「女の剣士か。やめておけ。鬼は女の肉が好きだ。真っ先に狙われるぞ。お嬢さん。鬼殺なんてやるもんじゃない。」
「もう下がれ。」
「・・・。」
「それでは下がらせて頂きます。」
襖を閉じた瞬間、杏寿郎はの方を向き、頭を下げた。
「すまない。やはり嫌な思いをさせてしまった。」
「父上も昔はああじゃなかったのだが。」
「杏寿郎。私は全く気にしていません。鬼殺隊は死に近い。つらい思いを多くされたのでしょう。」
「は優しいな。」
杏寿郎は少し寂しそうに笑った。
申し訳なさそうにしている杏寿郎を見て、は話題を変え、笑顔で言った。
「・・・それよりも、杏寿郎が言ったようにお顔が本当にそっくりで驚きました。笑わず済んでよかったです。」
「言っただろう?」
二人で目を見合わせて「ぷっ」っと噴き出すと、中から「うるさいぞ!」と怒鳴られ、笑いをこらえながら居間へ向かう。
(・・・つらい思いが多い・・か。確かにそうだな。母も亡くなり、友も亡くなり、息子の俺も死ぬかもしれない任務に就く。父は俺たちを認めてくれないと思っているのはもしかしたら思い違いかもしれないな。)