第10章 初任務
その手をまたぎゅっと握り返しながら杏寿郎は続ける。
「その中に、最終選別に残り、一緒に頑張ろうと声を掛け合った2人がいたんだ。覚えているだろうか?」
「・・うん・・・覚えてる。」
「彼らが命を懸けて残してくれた情報を元に俺は鬼を倒せて、たった1人生き残った子供を助けることができたんだ。」
寂しそうに笑う杏寿郎の顔を見ながら、は少しの沈黙の後、口を開いた。
「人が死んでしまう場面に出くわすのは本当につらいね。亡くなった隊員の人を救いたいという清らかな気持ち、子供達の恐怖や悲しみ。全部自分の心に刺さる。知っている人ならなおさら・・・」
杏寿郎は庭を見ながら話を続けた。
「あぁ。きちんと分かってはいるんだ。俺が後から駆け付けたから鬼の術が分かって倒せた。皆が救いたいと思った命を一人でも救うことができたということを。」
「・・でも考えても仕方の無いことなのに、もっと皆の命を救う方法が他にあったんじゃないか。とか、彼らと同じように人を救うことが俺にもできるだろうか・・。と考えてしまう。」
「次の戦いに備えて、準備をせねばと思うんだか、なかなか気持ちが切り替えられなくてな。立ち止まってしまった。」
「・・・。弱音を吐いてすまない。幻滅しただろう?」
杏寿郎は自嘲気味に笑っての方を向いた。