第10章 初任務
次の日の昼前、杏寿郎が任務を終えて帰ってきた。
庭で素振りをしていたは駆け寄り、見送った時と同じ優しい笑顔で迎えた。
の顔を見て杏寿郎も安心したように微笑み返した。
杏寿郎は任務で鼓膜を損傷してしまったが、胡蝶さんの薬で大分聞こえるようになったということだった。
千寿郎が作った昼食を杏寿郎はいつものにこにこした顔で「うまい!」「うまい!」と食べていたが、どことなく元気が無かった。
昼食後、杏寿郎は縁側でぼんやりと庭を見ていた。昼食の片づけが終わったは、杏寿郎の傍へ行き、声を掛けた。
「昨夜は眠ってないんでしょ?少し眠い?」
杏寿郎はの方へ向き、にこっと笑って答えた。
「ありがとう。確かに寝ていないが、眠くはないんだ。」
は、無理に作ったような笑顔を見せる杏寿郎に、何と声を掛けようか少し迷った。
「・・・杏寿郎。何かあった?って聞いてもいい?聞かない方がいいなら、私ちょっと走ってくるからゆっくりしてて。」
杏寿郎は少し驚いた顔をしていて、少し考えた後答える。
「・・・すまない。うまく笑えていなかった様だな。心配をかけてしまった・・・」
「・・・では、に聞いてもらうとしよう。」
杏寿郎は眉尻を少し下げて困ったように微笑み、観念した様に言った。
は杏寿郎の隣に座り、杏寿郎の手にそっと自分の手を重ねた。
その手を握り返し、ちらりとを見てから視線を庭に移し、杏寿郎はぽつりぽつりと話し始めた。
「俺が指令の場所に行った時にはもう9人の隊士と4人の子供が鬼に殺された後だったんだ。」
は、驚いてひゅっと息を飲む。
「血気術を使う鬼で、笛の音を聞くと体が自由に動かなくなってしまう術だった。」
「みんなその術にやられながら、後に来た隊士の為に指文字で情報を伝えようとしてくれていた。」
「・・・・。」
想像以上の現場の惨状には言葉が出ず、杏寿郎の手をきゅっと握った。