第6章 心惹かれる
「ごめんなさい。うるさくて眠れないよね。もう大丈夫だから杏寿郎は寝て。」
明らかに大丈夫ではない顔で必死に笑顔を作って見せる。
チクリと杏寿郎の胸が痛み、自分にできる限りの優しい笑顔でに話しかける。
「手を・・繋いでもいいか?」
「え・・でも・・。」
の言葉を遮るように杏寿郎は続ける。
「人のぬくもりがあった方がよく眠れる。もしもまたうなされていたら起こすから。」
杏寿郎は言いながら、の手をそっと取って優しく包み込む。つないだ手の小ささに少し驚いた。
をそっと布団に寝かせる。
何か言いたそうにしているの目を見なが言う。
「が眠ったら自分の布団に戻るから大丈夫だ。体力を回復させるためにしっかり眠ろう。」
はやっと涙が止まったが、まだその大きな翡翠色の瞳を潤ませながら、「ありがとう」と小さな声で言った。
言った後、にこっと少しだけ笑顔を見せ、すぐに瞳を閉じた。
(はこれまでずっと一人でこの悲しみに耐えてきたのか・・・。あんなに力強い技をこんな小さくて柔らかい手で出せるようになるまで、どれだけつらい修行に耐えてきたのだろう。自責の念を原動力にしながら・・・。)
(明日、俺はを誰もいない育手の家に帰すのか?夜一人で泣いているを?)
杏寿郎がぼんやりと考えているうちにの呼吸が寝息に変わったので、一旦手をそっと離す。
きっと明日起きた時に俺が畳の上で寝ていたら恐縮してしまうだろうと思い、自分の布団をそっと隣に敷いた。
女性の寝顔をあまり見ない方が良いだろうなと考えながら、天井を向いて寝転がり、またそっと手を繋いだ。
手を繋いだまま眠るとは朝まで起きる事は無かった。