第6章 心惹かれる
杏寿郎が目を覚ますと、台所からは朝食を用意する音が聞こえている。
杏寿郎は、まだすぅすぅと寝息を立てるを少しだけ眺めて昨日の事を思い出していた。
今になって考えると、年頃の女の子をかなり強引に家に連れてきて、何刻も稽古に付き合わせ、明日からも一緒に住んで下さいと頼み、さらに、成り行きとはいえ隣の布団で手を繋ぎながら眠るという、我ながら驚くべき行動に出てしまったと反省した。
でもその一方で、この繋いだ手を離したくない。断られても何度でも説得し、と一緒にいたいと考えている自分がいることに驚いた。
これから自分は鬼殺隊員として、いつ死んでもおかしくない身。大切な人を作って大丈夫なのだろうか?
(鬼殺隊員でなくても、この鬼のいる今の世の中。誰がいつ死んでもおかしくない。)
一緒に住むのはお互いの研鑽の為と言いながら、あの選別の日の胸の高鳴りが忘れられないだけなのではないか?
(に興味を持ち、もっと知りたいと思う気持ちは事実。でも、鬼殺隊の同期としてお互い技の研鑽が必要なのも事実。己の力を向上させることのみが生き残ることにつながる。)
この手を離して育手の家に一人帰らせるのか?
(この手を離したくない。もっとそばにいたい。)
に心惹かれているのか?
(・・・ああ、そういうことか。きっと出会った瞬間からだな。・・この気持ちに気付いたからにはもう隠せない。出会ってまだ数日だが、思いは募る一方だ、)
に拒まれたら?
(の意思は尊重したい。ほんの10日前の生活に戻るだけだ。)
楽しいと感じることや、幸せを感じることは強くなるのに邪魔ではないのか?
(色恋に現を抜かすわけではない、むしろ二人がこれから先、強くなるためにやるべきことははっきり見えてきている。)
途中、千寿郎が朝食の用意ができたと知らせに俺の部屋を開けて、この様子を見てぎょっとして慌てて襖を閉めてしまった。
(・・・まぁ、恋の熱に浮かされているこの感情や思考自体が、もはや正常ではないかも知れないがな。)
(選別に行く前によもや数日後にこの様になっているとは思わなかった。人生とは分からないものだ。)