第20章 意識不明
「杏寿郎!」
病室に入り、杏寿郎に声を掛ける。眠っているが、確かに目の辺りが動いた気がする。
天元の言う通り、聞こえているのだろうか・・。
少し嬉しい期待をしたが、意識があって体が動かないというのは、最悪は脳か背骨か・・・・良い方に考えればまだ血気術が残っているか・・・。は眉間にしわを寄せて考え込んだが、ハッとして自分の頬を叩いた。
「考えるのやめ!体、拭こ。」
「杏寿郎。体を拭くよ。」
なるべく明るい声で話しかけ、白い術着をはだけさせて体中を拭く。
少し筋肉が落ちただろうか・・・。少し悲しい気持ちになったが、杏寿郎の胸へ手を置き、鼓動を確認する。ドッドッドッドッと手のひらから力強い鼓動が伝わって来る。
「杏寿郎。待ってるよ。目を覚まして。」
優しく呼びかけながら、また術着を戻し、布団をかける。ちらりと顔をみると、少し穏やかな表情になったような・・・。
はまた杏寿郎の手を握り、自分の頬につけてみたり、手の甲に口づけをしてみたりする。杏寿郎の額や頬、鼻の先、瞼にも唇を落とす。最後に唇にちゅっと口づけをし、「そばにいるからね」とまたぎゅっと手を握ると少し握り返された気がした。
(少し反応があるだけでも嬉しい。杏寿郎も頑張っている。自分だけ不幸ぶるのはやめよう)
少しずつ前向きな気持ちになり、手を繋いだまま、きちんと食事を摂り、少しずつだが睡眠もとることにした。
夜にはまた担当地区の警備に当たり、朝日を見たら蝶屋敷に戻る。
五日目
やはり杏寿郎はまだ目は開けず、体も動かない。
は、沢山話しかけ、体を動かしながら刺激を与える。
日が暮れたら任務に行き、朝になると戻って来る。
六日目も同じ。
はひたすら杏寿郎の体や顔に触れ、話しかける。そしていつものように顔中に口づけを落とす。「大好きだよ。早く抱きしめて。」と言いながら。
最後に唇にちゅっと口づけをし、顔を離すと杏寿郎の瞼がぴくりと動き、ゆっくりと開いた。