第3章 夢見事/魘夢/魘夢にベタ惚れ鬼夢主/微甘/※グロ
は自身の首に留まる細いリボンを解き、ボタンを上から3つ外した。はだけて覗くのは柔らかそうな白い胸元だ。自らそこを強調し、魘夢ににこりと笑顔を向ける。
「さ、行きましょ」
「居心地良さそうな特等席だね」
意図はきちんと伝わったようで、彼は左手を左胸に添わせて埋めてくれる。こちらの心臓の音が伝わると思うと、丸ごと彼に運命を預けているみたいだ。
その手が熱いのか冷たいのかはよくわからなかった。一つだけ確かな事は、この世で最も尊い宝物を胸に仕舞い込んだという点だ。
ボタンとリボンを素早く元に戻し、は後ろを振り返った。
「いってらっしゃーい」
伸びやかな語尾を携えて、魘夢は右手を軽く振る。今宵の散歩の目的は決まっている、離れている間が惜しい。最短距離最短工数で、一分一秒でも早く彼の元へ帰ってきたかった。
「行ってきまーす」
口調を真似てそう挨拶をした。月明かりに照らされる彼の顔は、青白い陶器のよう。片手を切り離しているせいなのか、前髪の合間からいくつもはっきり浮く額の血管の数々は雅なる呪いの刻印みたいで。募るのは狂おしい恋慕ばかりだ。は汽車を飛び出した。
◆
の脚で向かう先、位置にすればそれ程遠くもない。
草地を素早く蹴る脚を早めれば早めるほど、例の血の香は濃くなってくる。想像すればする分だけ意識が毒されてゆくようだった。
濃密で、濃ゆくて。喉の奥が焼ける。
たった一口で体内が爛れ落ちるほど、じりじり熱くなる。
生理的に生唾が出る。胸元に温めている左手が、ほうと息をつくのが伝わった。
「そろそろ近いのかな」
「ええ。わかる?香りがどんどん強くなる」
「匂いはわからないけれど、……君の鼓動がうるさいくらい」
「っ、……」
是正されるかの如く、左胸をきゅんと掴まれた。遠い昔に忘れていた、うずくようなむず痒いような、妙な感覚を得る。思わず歩みが緩んだ。
「あれぇ……どうしたの?」
指先はいかにもをからかうみたいに、胸の真ん中をぐりぐり擦り合わせてくる。怪しく笑う唇は、滴る唾液で肌やワンピースをじわじわ汚してゆくようだ。
そんな妄想をするだけで、また背筋がゾクゾクする。
翻弄される、身も心も。
その感覚だけで目眩すらしてきそうだ。