第3章 夢見事/魘夢/魘夢にベタ惚れ鬼夢主/微甘/※グロ
不思議そうに口を丸める表情は、いとも可愛らしかった。稀血を仕留めて彼への供え物に。の算段はそれだった。
「贈り物かぁ なんだろうね?」
「きっと喜んでくれるはず……」
稀血の人間は鬼にとって極上の栄養でご馳走となる。それを愛おしい相手に食べてもらいたいと思うのは別におかしな思考ではないはずだ。牽制されるつもりはないし、仮に拒否をされた所で、殺して丸めて食べやすくした形でぐちゃぐちゃのまま目の前に突き出してやるつもりだ。
魘夢は片手を口元へあてる、まるで子供のよう肩を揺らして笑っていた。歪む口唇から覗く牙が、悪戯に鋭く光る。
「君って本当〜に、変な鬼だよね」
「なぜ?」
「君の獲物なんだから君が食べたらいいのに」
「私の獲物なんだから、どうするかは自由でしょう?」
そう。これは勝手な利己的押し付け、相手の意思など関係ない。
これは本能的に起こる恋を模倣した求愛行動だ。そこに理性なんてものは存在しない。
もう一度、視線を窓の外に投げた。標的はここからそう遠くはないはず、汽車の進路を予測しながら行けば、土産を持った形で正しく魘夢のもとへ帰ってこれるだろう。脚にきつく力を込めると、視界の横から何かが入り込んでくる。
「はい。」
「………」
「御守りィ」
「…………」
差し出されたのは、左手だった。
それはかさかさと指だけでの袖を伝い、ちょこんと肩におさまった。
先程までの研ぎ澄まされた感覚が一気にぷしゅんと鎮火されるみたいだった。彼の行動があまりに嬉しくて、衝撃で、思わず理解に時間がかかってしまった。
潤む瞳がの顔の側に、吐息までもが耳元に。たまらなく触れたくなり、思わず頬をすり寄せると甲の上の唇が思い切り下がってゆく。
「……私、今夜のお散歩のこと永遠の思い出にする」
「大袈裟だな」
魘夢は顎を落として笑う、クスクスと品よく少女のように。